製薬メーカーにおけるコア人財の育成【第2回】

 前回、製薬産業を取り巻く多様で複雑な課題を解決するためのイノベーション施策として、とくに、個別化医療、戦略マーケティング、ステークホルダーとの連携が注目されていることを記した。このうち、戦略マーケティングについては、組織及び人財の両面から製薬メーカーの将来を左右する可能性もあるので、各論に進む前に理想の組織とはどの様なものか、という考察も含めて触れておきたい。
 
●戦略マーケティングとは
 「マーケティング」と名付けられた部署は、1980年代まで、とくに内資系製薬メーカーには少なく、名前はともかくマーケティング機能を発揮している部署はほとんどなかった。戦略マーケティングとは、従来の「現状分析(現状把握型・改善型)アプローチ」から脱却して「理想構想(理想追求型・改革型)アプローチ」を進めるものである(図)。
 
 
図 戦略マーケティング
 
 「現状分析アプローチ」は、現在の市場分析を徹底的に行い、さらに2年後、3年後、5年後、10年後という様に市場予測を立て、開発品の売り上げ予測を行うアプローチである。それに対して「理想構想アプローチ」は、開発品・製品の最大価値が発揮される時期と規模、すなわち、売り上げや利益が最大になる時期の適応疾患、売上額と利益額などをまず予測するものである。予測された時期から2年前、3年前、5年前、10年前、そして、現在にまで遡り、それぞれの時期になすべきことを検討し、怠りなく準備を進めるアプローチである。例えば、研究段階から患者団体と接触して真のニーズ、すなわちどの様な症状で困っているのか、どの様な治療を望んでいるのかを探り、早目に生産設備の検討を始めたり、将来のKOL(Key Opinion Leader)と目される大学の若手研究者との協力関係を醸成するなど、研究・開発段階からの積極的かつ効果的な介入が可能となる。これにより、リソースの効率的な投資・配分が行われ、併せて、理想的には販売促進(売り込み)活動を極端に減らせることになる。すなわち、メディカル・ニーズに適合した無駄のない開発を行い、当該製品に関する十分な知識や情報を持ったKOLがその情報を学会や所属組織でカスケード・ダウンすることによって、発売前後には医師の方が製品知識を十分に持っている状態になり、販売促進活動を減らせることになる、というものである。
 自らを「社会生態学者」と称したPeter Druckerは、「マーケティングの理想は、販売を不要にすることである」と述べ、自然に「売れてしまう」状態を作ることこそが「マーケティング」であると定義している。
"There will always, one can assume, be need for some selling. But the aim of marketing is to make selling superfluous. The aim of marketing is to know and understand the customer so well that the product or service fits him and sells itself. Ideally, marketing should result in a customer who is ready to buy. All that should be needed then is to make the product or service available........." (Drucker, Peter F., "Management: Tasks, Responsibilities, Practices",Harper & Row, (1974) 864)

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