新・医薬品品質保証こぼれ話【第9話】

2022/08/19 品質システム

欠品の様々なリスクと対策の考え方について。

欠品の様々なリスクと対策の考え方

2021年の年初から相次いで発生した違法製造や製造記録の虚偽記載などによる自主回収と、それに伴う業務停止により、後発医薬品の多くの品目に欠品や限定出荷など医薬品不足の問題が生じ、現在(2022年8月)もなお解決の見通しが立たない状況にあります。この一年余りの医薬品不足はこのように、そのほとんどが後発医薬品の自主回収に起因する生産や出荷の停止が原因でした。ところが最近、後発医薬品の欠品とは理由を異にする重大な医薬品不足の事例が見られます。一つはニプロファーマのセファゾリン製剤、もう一つはカロナールをはじめとするアセトアミノフェン製剤です。今回はこの二つの事案に関し、その原因と対策について考察を試みたいと思います。

先ず、セファゾリンの事案ですが、セファゾリン製剤に関しては2019年に日医工の製品に関して、長期にわたる欠品問題が生じ、セファゾリン製剤が医療上、極めて重要な医薬品であることから大きな社会問題にもなりました。このケースでは、イタリアの製造所から調達されていた原薬に不溶性異物の混入が認められ、製剤化ができない状況となりましたが、今回のニプロファーマのケースも、セファゾリン原薬はイタリアの製造所から輸入されており、やはり、日医工のケースと同じように原薬への不溶性異物の混入が製剤の生産の停止を招いたようです。

海外原薬の“異物リスク”については、セファゾリンに限らずすべての海外原薬に言えることであり、海外原薬を使用する以上は気を緩めることなく、緊張感をもって品質確認を継続する必要があります。海外原薬の異物問題の根底には日本人と外国人の厳然たる衛生意識の違いがあり、このことは、言わば“国民性“の問題であり、簡単に改善できるものではないことから常に留意し対応することが求められます。気を抜くと、必ずといってよいほど再発する問題と言えるかも知れません。定期監査や日頃の受け入れ検査に際しては、慎重な対応が望まれます。

海外原薬のリスクは異物問題だけではありません。異物以外にも様々なリスクが潜在していることを常に念頭において対応する必要があり、中でも、これまでにも述べてきているように環境問題との関連は重要です。多くの原薬の輸入先である中国やインドは大気や排水の汚染が深刻であり、その改善のために政府の環境管理基準が年々厳しくなってきています。その結果、原薬工場に限らず、出発物質や中間体の製造所に対しても厳しい基準で改善要請が行われ、それに対応できない工場は操業停止となります。

現在、出発物質や中間体の多くが中国で製造されているという実態があり、例えば、イタリアの製造所の原薬を使用する場合でも、出発物質や中間体は中国からの輸入であることが多く、もし、環境問題で中国の出発物質の製造所が操業停止処分となった場合、イタリアの製造所は原薬の生産を継続できなくなり、その結果、日本での製剤の生産が止まるという状況を招きます。日医工のセファゾリン製剤の欠品の原因の一つは、正にこのケースに該当するものでしたが、このような状況から言えることは、海外原薬を頼る限りは、常に、そういった想定外とも言える欠品を招くリスクと隣り合わせにあるということではないでしょうか。従って、海外原薬を使用するのであればこのことを常に念頭において、需要の見通しを計りながら、原薬の調達計画や在庫の確保、管理といったことを慎重に進めることが重要となります。

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執筆者について

浅井 俊一

経歴 1974年ロート製薬入社。品質管理・薬事・品質保証の各業務にそれぞれ7年・15年・16年間従事。退職後、2018年まで中国の原薬工場および国内受託企業において、改善・人材育成を含む品質保証全般に携わる。
中国での活動に、「新薬事法下の日本の医薬品品質保証体制」(2009/上海),「日本に輸出するための原薬品質の要件」(2017年/杭州)などの講演や、北京CFDA(現, NMPA)主管「医薬経済報」への「中国原薬の品質確保の視点」の連載(2012年)などがある。
取り組みテーマは「製薬工場のヒューマンエラー対策」,「中国等の海外原薬の品質と安定供給の確保」,「GMP記録の信頼性確保」,「組織コミュニケーションの活性化」,「作業者のモチベーションの確保」など。
著書に「改訂版GMP教育訓練マニュアル」(㈱じほう、共著),「3極対応/試験検査室管理実践資料集」(㈱情報機構、共著)などがある。
元,日薬連品質委員会常任委員。元,日本OTC医薬品協会品質委員会委員長。元日薬連CSV検討会メンバー。 薬剤師。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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