医療機器の生物学的安全性 よもやま話【第30回】

2022/06/17 医療機器

まとめとして埋植の評価と全身毒性について。

埋植の評価と全身毒性

 前回までのお話で、インプラントの生体適合性としては、異物としては認識されるものの、組織の中で安定化することが一定の生物学的安全性の評価ポイントであることを述べました。また、吸収/分解性材料の場合は、分解過程において組織に悪影響を及ぼさず、吸収/分解後には、元通りの組織となることが望ましい姿であることが重要です。
 まとめますと吸収/分解性の如何によらず、埋植後の変化として以下のような状態となっていれば、大きな問題はないだろうと考えられます。
 ①埋植初期、中期、そして長期の埋植期間のいずれにおいても炎症反応等の有意な組織反応がないこと
 ②中長期の埋植においては、線維性被膜による器質化や新生骨の形成がすすみ、安定化すること
 ③吸収/分解性材料の場合は、分解過程において、有意な組織反応を認めないか、認めたとしても
  一過性でありその後に消失すること
 ④吸収/分解性材料においては、ほぼ吸収/分解された後に組織反応が安定しているか、正常組織に
  戻っていること

幸いこのような状態となっていればよいのですが、以下のような場合はどう考えるでしょうか。
 ①短期の埋植期間の観察では、比較的明確な炎症反応が見られたが、中長期では消失していた。
 ②短期の埋植期間においてのみ、対照試料と比較するとごくわずかに組織反応が強かった。
 ③中期の埋植期間では、ごく弱い反応であったが、長期では線維性被膜で被包されているものの
  リンパ球が至るところに存在していた。
 ④吸収/分解性材料の埋植で、分解が激しい期間において、周囲組織の一部の壊死を含む炎症反応が
  見られたが、吸収が進むについて終息し、元通りの組織像になった。

 ①のケースでは、短期の埋植で炎症反応が見られていますので、埋植初期に溶出等により周囲組織に細胞毒性を示す物質がばく露された可能性が示唆されます。ただ、その後は問題がありませんので、初期溶出が原因であり、可逆性のある反応であると考えられます。したがって、短期に見られた反応が、最終製品となった際にどの程度ダメージを及ぼすのか、そして、そのダメージにより性能がスポイルされることがないのか検討します。許容できる場合は、同様の既承認品の材料で同じような現象がないか調査し(場合によっては試験を行います)、同等であれば、生物学的安全性リスクについては無視し得ると判断することが可能になります。
 ②では、対照試料である高分子ポリエチレンなどと比較した際に、ごくわずかな反応だったということですので、偶発的なものかもしれません。試験では複数の動物を使用していますので、個々の反応を確認し、特定の動物のみに反応が偏る場合はその可能性が高いと思われます。また、その際には、当該動物の対照試料埋植部位の所見も確認し、反応が幾分強く生じている場合には、特定の動物の個体差である可能性があります。次に、細胞毒性や皮内反応試験の結果を確認します。いずれの試験でも問題のない結果が得られているようでしたら、それらの結果を総合して考察し、有意なものではないという結論を導くことができるかもしれません。
 

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執筆者について

勝田 真一

経歴 一般財団法人日本食品分析センター 理事
1986年財団に入所し、医療機器、医薬品、食品、化粧品及び生活関連物資等の生物学的安全性評価に従事。1997年佐々木研究所研究生として毒性病理学及び発癌病理学研究に携わる。1999年東京農工大学農学部獣医学科産学共同研究員として生殖内分泌学研究。日本毒性病理学会評議員、ISO/TC194国内委員会、ISO/TC194 WG10 Technical ExpertやJIS関連の委員などを歴任。財団では薬事安全性部門を主管し、GMPやGLP対応を主導。情報システム部門担当を歴任。大阪彩都研究所長を経て現在北海道千歳研究所長。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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