新・医薬品品質保証こぼれ話【第5話】

2022/06/17 品質システム

自己点検の限界と包括的な内部監査のすすめ。

自己点検の限界と包括的な内部監査のすすめ

医薬品の供給不足の原因の一つとして、“違法製造による自主回収や業務停止”が大きな問題となっていますが、この違法製造の中心にあるのが“承認書と製造実態の齟齬”であることは周知のとおりです。“承認書と製造実態の齟齬”の問題に関しては、化血研の事案の後、平成28年1月19日、当局より一斉に自己点検が指示され、その結果、同年6月1日に、「医薬品の品質、安全性に影響を与えるような、事前承認が必要な相違はありませんでした。しかし、事後届出(軽微変更届出)が必要な相違は479社22,297品目(全品目の69%)にありました」との報告が行われました。(厚労省報道資料「医薬品の製造販売承認書と製造実態に関する一斉点検の結果」)。

このことは、点検の結果、“承認事項を逸脱する重大な齟齬は認められなかった”、ことを意味します。しかしながら、この自己点検のあとに、後発医薬品を中心に“承認書と製造実態の齟齬”による重大な回収事案が多発したため、改めて自己点検(ジェネリック製薬協会の自主点検:令和3年3月「ジェネリック医薬品の信頼性確保に関する対応について」)が行われたことは記憶に新しいと思います。
    
GMP省令が求める自己点検の目的は、自社の製造所の日々の業務がGMP省令に照らして適法で、かつ、過不足なく適正に実行されているかどうかといった観点から自ら点検し、問題点を洗い出し、それに対し必要な是正を行うことにより継続的改善につなげることにあります。しかし、点検の結果、査察官の目に触れると重大な問題に発展するような事案が確認され、その改善が容易でないと判断された場合などに、企業判断(当該部門の管理職などの判断を含む)として、それを点検の記録から抹消するといったことが行われる可能性が否めません。また、自己点検は通常、年に一度ほどの定期的な実施であることから、この場で重大な問題が確認されたのではすでに問題が大きくなり過ぎていて、遅きに失するということも少なくありません。

こういったことは、自己点検という業務が持つ特性、つまり、“自己点検の限界”と言えるのではないでしょうか。GMPの基本は、“未然の問題回避”、つまり、“予防的対応”であることを考えると、自己点検はこの目的にはそぐわないということになります。そこで、今回はこの“自己点検の限界”を補い、未然に重大な問題を回避するための手段として、自己点検と類似する概念を持つ用語、“内部監査”を取り上げ、考察を試みたいと思います。

改正GMP省令(以下、「改正省令」、或いは「省令」)に示される業務のうち、“自ら業務の状況の確認を行うこと”(以下、「内部監査」)を意味するものとしては、「自己点検」(第18条)のほかに、「製品品質の照査」(第11の3条)、「安定性モニタリング」(第11条の2)があります。また、改正省令(第4条第3項第2号)において設置が要件化された、“品質保証業務を担当する組織(以下、「QA」)”の責務として定められた“原材料の規格や製造手順等が承認事項と相違ないことの確認”(省令第5条第1項第3号)も内部監査にあたる業務と位置づけることができます。
 

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執筆者について

浅井 俊一

経歴 1974年ロート製薬入社。品質管理・薬事・品質保証の各業務にそれぞれ7年・15年・16年間従事。退職後、2018年まで中国の原薬工場および国内受託企業において、改善・人材育成を含む品質保証全般に携わる。
中国での活動に、「新薬事法下の日本の医薬品品質保証体制」(2009/上海),「日本に輸出するための原薬品質の要件」(2017年/杭州)などの講演や、北京CFDA(現, NMPA)主管「医薬経済報」への「中国原薬の品質確保の視点」の連載(2012年)などがある。
取り組みテーマは「製薬工場のヒューマンエラー対策」,「中国等の海外原薬の品質と安定供給の確保」,「GMP記録の信頼性確保」,「組織コミュニケーションの活性化」,「作業者のモチベーションの確保」など。
著書に「改訂版GMP教育訓練マニュアル」(㈱じほう、共著),「3極対応/試験検査室管理実践資料集」(㈱情報機構、共著)などがある。
元,日薬連品質委員会常任委員。元,日本OTC医薬品協会品質委員会委員長。元日薬連CSV検討会メンバー。 薬剤師。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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