新・医薬品品質保証こぼれ話【第4話】

2022/06/03 品質システム

改正GMP省令への対応の考え方について。

改正GMP省令への対応の考え方

昨年(2021年)8月1日に改正GMP省令が施行され、間もなく一年となります。各企業においてはすでに一通りの対応を終えられているものと推察されますが、今なお一部の企業においては違法製造による自主回収、また、それに伴う業務停止など重大な事案の発生が散見されるのが現状です。今回の改正の主旨は、大きくは、PIC/S-GMPへの整合化とICH-Q10「医薬品品質システム」の取り込み、および、このところの“承認書と製造実態の齟齬”の問題への対策の3つと考えられ、これらに関連する記述が、新設条項はもとより、各条文の随所に色濃く反映されています。

今後、製薬工場における医薬品の品質確保はこの改正省令を基礎に推進することになりますが、同時に、行政査察や企業監査などに際しても、改正省令の主旨を踏まえた対応が基本になることは想像に難くありません。そこで、施行から約一年を迎え、これから本格的にこれへの対応が求められる中、改めて改正GMP省令(以下、「改正省令」、「本省令」或いは「省令」)の要点を整理し、業務停止につながるような不祥事を少しでも低減できるよう、これへの対応の考え方について考察を試みたいと思います。

今回の改正では多くの条項が新設されましたが、第3条関連の次の3つの条項、すなわち、「承認事項の遵守」(第3条の2)、「医薬品品質システム」(第3条の3)および「品質リスクマネジメント」(第3条の4)は、上に挙げた3つの改正の主旨に対応するもっとも基本的な条項であり、特段の留意が必要です。中でも「医薬品品質システム」(PQS: Pharmaceutical Quality System)の構築は品質確保の基礎となる事項であり、特に重要です。また、これに関連して、第4条(製造部門および品質部門)に新設された「品質保証に係る業務を担当する組織」(以下、「QA」)の設置の要件化は、QAが“品質方針に沿った品質目標の設定”を担うこと、加えて、改正省令に規定の多くの重要業務へのQAの関与・役割と責任が明確にされたことから、今後、QAにはこれらに応えるためのさらなる組織の整備と業務内容の充実が求められます。

ちなにみ、上記の新設条項「承認事項の遵守」は極めて基本的で、当然のことではありますが、このところの法違反に係る不祥事を念頭に、違反等発生時の法的判断の明確な根拠とするために、省令改正に際し明記されたものと理解されます。よって、今後、“承認事項の逸脱”に関してはこれまで以上に注意を払い、慎重に対応することが求められます。この「承認事項の遵守」に関連する重要な条項として、第5条(製造管理者)第1項第3号に、“製造管理者がQAに行わせる業務”として新設された次の条文があります。「原料、資材および製品の規格並びに製造手順等が承認事項と相違することのないよう、品質保証に係る業務を担当する組織に管理させる」。

ここでは、”承認書と製造実態の齟齬“に関し、管理すべき事項が具体的に示され、同時に、これに対するQAの管理責任が明確にされています。このことは、もし、承認書と実際の製造手順や記録類の間に齟齬が認められた場合は、QAがその管理責任を問われることを意味します。従って、この規定を受けて、QAが関連の業務手順の整備(SOPの作成)を行い、また、実務遂行に向けて具体的な行動計画を策定するといったことが極めて重要となります。
 

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執筆者について

浅井 俊一

経歴 1974年ロート製薬入社。品質管理・薬事・品質保証の各業務にそれぞれ7年・15年・16年間従事。退職後、2018年まで中国の原薬工場および国内受託企業において、改善・人材育成を含む品質保証全般に携わる。
中国での活動に、「新薬事法下の日本の医薬品品質保証体制」(2009/上海),「日本に輸出するための原薬品質の要件」(2017年/杭州)などの講演や、北京CFDA(現, NMPA)主管「医薬経済報」への「中国原薬の品質確保の視点」の連載(2012年)などがある。
取り組みテーマは「製薬工場のヒューマンエラー対策」,「中国等の海外原薬の品質と安定供給の確保」,「GMP記録の信頼性確保」,「組織コミュニケーションの活性化」,「作業者のモチベーションの確保」など。
著書に「改訂版GMP教育訓練マニュアル」(㈱じほう、共著),「3極対応/試験検査室管理実践資料集」(㈱情報機構、共著)などがある。
元,日薬連品質委員会常任委員。元,日本OTC医薬品協会品質委員会委員長。元日薬連CSV検討会メンバー。 薬剤師。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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