ドマさんの徒然なるままに【第38話】リーサル・アカン4/理解不能!?


第38話:リーサル・アカン4/理解不能!?

この『ドマさんの徒然なるままに』の連載、2019年2月の第1話を皮切りに丸3年が経過し、4年目に突入しました。そんなこともあり、連載開始当初に登場させた「リーサル・アカン」シリーズを久々に掲載します。このシリーズの第4作にあたります*1

今となっては、15年以上前の古い話となってしまっていますが、今回も筆者の経験した「アッと驚く驚愕の状態」を紹介します。既にご理解頂いているとは思いますが、誤解を避けたいため、改めて申し上げておきます。ここで紹介するものは、GMPとして課題となるポイントを絞り、かつ、読者への分かり易い“読み物”として適度の脚色も加えています。決して冷やかしでなければ、まして誹謗・中傷ではありません。あくまで、「こんなことをしてはいけない」ということ、と同時に「もし似たようなことや近いことをやっているようなら即刻改善したほうが良い」というアドバイスのつもりでお伝えするものです。

本話では、直接的には製品の品質に影響が及んではいないものの、「この工場、どうなってんだ?」といった、GMPを超えて医薬品品質システム(PQS)、さらにはQuality Cultureとして疑問を感じさせる事例を集めてみました。

ちなみに、本話で紹介する内容はかなり以前の話なので、現在では改善・向上していることを期待しています。改善も向上もしていなかったら、それこそ大問題ですが・・・。



● ここってウォーターワールド? 水の都ってここ?

アジア圏某国の原薬製造所の話。製造用水として精製水を使用する。ということで、精製水発生装置室を拝見させて貰った。別施設ということであったが、入口のドアからして、お世辞にも綺麗とは言い難い。中に入る、実に湿っぽい。床、むしろ“地べた”と言ったほうが適確な表現。かなりビショビショになっている。配管に隙間か亀裂でもあるんじゃないかとも思えるほどに。精製水システムとしてホントに大丈夫か、バリデーションされてるのか? と思ってしまう。

でも、外側部分だから、取りあえず、と自分に言い聞かせる。が、その地べたのような床や排水溝などにハエが・・・。きっ、きっ、きったねー。でも、当該工場、この程度のものじゃなかった。もっと凄いことが・・・。それは次に。



● 貯水槽の怪人!?

さて、製造室内での精製水の使用について確認させて頂いた。リアクターの横に貯水槽(クッションタンク)が設置されており、そこから必要量を投入するとのこと。これだけでも菌の増殖を考えるとリスクが高いのだが、もっと凄いことが。クッションタンクのため、当然のことながら貯水メーターが付いている。当日は非作業時とのことであったが、内容量が見える。まだ排出していない? まぁー、これはリコメンデーション程度として許そう。

だが、次の瞬間、貯水メーターの窓に付着してる何か緑色の物が目に留まる。しかも内側のようだ。うん、これ何だ? “藻”に見えるが、まさか・・・。再度良く見てみる、どう見ても藻である。

筆者:これ、藻じゃないんですか?
応対者:そうですが、何か?
筆者:精製水ですし、マズイでしょ。
応対者:(平然と)メーターなので混ざること無いですし、(当該国の)薬局方の規格を見たしているので問題ありません。


当該クッションタンク、側管式でなく重量方式によるものとは思う(思いたい)が、衛生管理上問題だとしか思えない。が、これ以上議論する意欲さえ失せた。唯一思ったのは、広大な大陸に生まれ育った者は、当局も患者も寛容なのかもしれない。俺は、周囲を海に囲まれた島国生まれの日本人だから・・・。

ちなみに、本小見出しのタイトルから「オペラ座の怪人」を連想する者はいないだろーなー。えっ、だったら「水瓶座の怪人」にしろってか? そうかもしれません。



● 水は低きに流れ、人は易きに流れる

これまたアジア圏某国の原薬製造所での話。原薬製造所、一般に3階構造で、最上階で仕込みと反応、2階で遠心分離、1階で乾燥と取り出し、といった重力を活用したバーチャルな設計の施設が多い。当該工場もご多分に漏れず、このタイプ。その最下階に設置されているコニカル乾燥機を確認。乾燥機なので取出し口がある。その取出し口の真横の水たまりが目に留まる。天井を見上げれば水がポタポタとしたたり落ちて来る。

筆者:あれは?
応対者:上で清掃作業をしています。
筆者:取り出し口に近いし、そもそも水漏れがあるのは問題でしょ。
応対者:(臆面もなく言い切る口調で)取り出し口からズレているので問題ありません。
筆者:・・・。(心の中で)こいつ馬鹿だ。


この工場、PTJ ONLINEコラム「GMDPおじさんのつぶやき」の第5話「工場の中の懲りない面々・その2」の中で紹介した強者の工場である。うーん、ある意味、素晴らしい・・・。少なくとも、筆者にそれだけの度胸はない。

ちなみに、小見出しのことわざ、原典は孟子の「水の低きに就く如し」で、自然のなりゆきには逆らえないという意味である。現在では、「水が自然と低いほうに流れるように、人は安易なほうを選びがちである」という意味で用いられる。読者の皆様、決して安易な方向へ簡単に流れずに、リスクを下げるように自分を戒めましょうね。



● 謎のピークHPLC

米国FDAの査察もパスしたという米国内の某原薬製造所。治験原薬製造を委託していた。ある時、緊急連絡が入った。

委託先:すいません。HPLCで不明のピークが出現しました。
筆者:え、どういうことですか?
委託先:今まで全く認められていなかったピークなんですが、今回のバッチで突然出現しました。
筆者:取りあえず、そのHPLCのチャートをファイル化してメールで送ってください。また、そのピークの正体と共に混入原因の調査をお願いします。


しばらく経って、追加連絡が入る。

委託先:すいません。先ほどの不明ピークの正体が判りました。
筆者:何ですか?
委託先:HPLCカラムの清浄不足により、前測定品目のピークが不純物のように出現したようです。再度試験したら問題ありませんでした。
筆者:では、うちの製造バッチの品質自体には問題ないんですね。
委託先:はい、まったく問題ありません。今回の事態については深くお詫び申し上げます。
筆者:それで、御社として今回の問題をどう捉えて、どのように改善するおつもりですか?
委託先:洗浄も含めて教育訓練を徹底します。今回問題を起こしたオペレーターについてはクビにしますが、それでお許し頂けますか?
筆者:・・・(唖然)。


そういうことじゃないですよ。オペレーターをクビにして済む話じゃないでしょ。米国らしいと言えば米国らしい*2が、やってることオカシイでしょ。さすがに頭に来て、後日に当該工場に監査に行ったことは、容易に想像できるものと思う。

cGMP対応だとか、米国FDA査察をパスしているとか、謳い文句は結構であるが、最も大事なことは、「当たり前のことを当たり前としてキッチリやること」である。

ちなみに、本小見出しのタイトル、1970年代初頭のTV番組「謎の円盤UFO」をもじったつもりだったが、語呂合わせにもなっておらず、読者のメイン年齢層も考えると、ちょっと無理があったか・・・。もう少し考えねば。



● 第二者確認の目的

ここでの第二者確認は狭義の品質管理部門(試験検査部門)の話である。製造記録の第二者確認の代筆については、PTJ ONLINEコラム「GMDPおじさんのつぶやき」の第19話「インスタ映え?」の中で紹介した。ここでは、ちょっと意味合いの異なる第二者確認のパターンを紹介する。

当該工場、基本的には化成品工場で、一部について原薬中間体等をGMP対応で製造しているといった状況(GMPは限定適用による運用)であることが背景にあると思って頂ければ、より状況が分かり易いかと思う。

委託先監査として試験検査記録を確認。パッと見た瞬間、測定者と確認者(品質管理責任者となっている)が同一者。すなわち説明をしてくださっていた品質管理責任者、ご本人である。

筆者:あれ、この2名、あなたですね。
応対者:はい、うちは人数が少ないこともあり、私自身が試験検査を担当する場合も多くあります。
筆者:立場を違えての第二者確認ということですかね?
応対者:はい、そうなります。
筆者:第二者確認として、何を確認なされるのですか?
応対者:試験検査が適切に実施されているということの確認です。
筆者:試験検査システムの確認ということですね。と言うことは、俗に言う「ダブルチェック(double-check)」に近いということかと思いますが、試験検査における秤量ミスや計算ミスを含めて再演算等の意味合いで行う「クロスチェック(cross-check)」はどうしているのですか?
応対者:すべて私自身が行っています。クロスチェックは同一人でもOKと認識しておりますし、品質管理責任者による第二者確認とSOPで規定していますので、必然的にこのようになります。
筆者:人数の問題や立場は理解しますが、こういう場合でのクロスチェックについては他のQC担当者のほうが良いのではないですか。そのほうが品質管理責任者としてのシステムチェックという、あなたのダブルチェックの意味合いも深まりますし、むしろ本来の目的には合致すると思いますが3。率直に申し上げて、現在の運用は委託者から必ずしも了解されるとは思えないのですが・・・。


GMP組織として、複数の●●責任者の兼務とか、実務担当者と責任者を兼務するとかいうことは多々ある。それ自体は否定しない。ただ、実務としての作業行為となると、時と場合(目的とする内容)によるのではないか。本事例の場合、上記のようなやり方、汚い表現をお許し頂ければ“自●行為”とも言え、形式的なGMP運用のように思える。むしろ、SOPそしてその様式を見直して、本来目的とする「データの信頼性の確保」に専念すべきであると思う。当時はData Integrityなる言葉は大っぴらには存在していなかったが、それ以前にデータそのものの在り方が問われる運用と実態のように思えるんですが、皆様はどう思います?

 

ということで、製品の品質に直接的には影響していないものの、「コレッて印象悪いよなー! お宅のGMPって何なの?」と思われ、品質システムそのものに疑義を抱かれる事例を紹介した。特に受託製造業者であれば、顧客への不安・不信を煽ることに繋がる。独りよがりなGMPにならないように、他者の目線ではどのように映っているのかを自己点検等でチェックしてみては、いかがであろうか。そういった些細なことの積み重ねが、会社全体としての品質システムの構築・向上に、ひいてはQuality Cultureの醸成に結び付くと思う。少なくとも、製品の品質には及んでいないじゃないか、という捉え方をなさっておられるようであれば、既に致死的(リーサル)な状態と言わざるを得ません。



では、また。See you next time on the WEB.



【徒然後記】
白雪姫の王子様
前37話の徒然後記の続きではないのだが、今回も私の幼児時代の話である。
実のところ、筆者、幼稚園の年長時でのイベント(当時は「お遊戯会」とか何とか言っていたと記憶している)で白雪姫の王子様役を演じている。白雪姫の王子様と言うと、何となく主役のように感じるかもしれない。確かに白雪姫は主役である。が、王子様の出番は、なんと七人の小人よりも少なく、最後の最後、毒リンゴを食べて眠ってしまった(死んでしまった?)白雪姫を抱き起こして目を覚まさせるだけで、そのままフィナーレになってしまうのである。
大人になった今だったら、どさくさに紛れて白雪姫にキスでもしてしまうシチュエーション(すいません。でも、王子様がキスすると毒リンゴが口からポロッと出て生き返るんじゃなかったかな? よく考えると、はじめて出会った女性、しかも仮死状態の相手にキスするか? 人工呼吸の救命措置だってか? ウソつけ!)だが、さすがに5歳の年長さんである。そんなスケベな下心もなく、言われるがままマジメに演じた(本当です!)。
相手の白雪姫は隣の町内の靴屋さんの娘さんであったが、確かに可愛い子であったと記憶している。その後、小学・中学ともに同じクラスにはならなかったこともあり、ガールフレンドにさえならなかったが・・・。
ちなみに、27年後に我が息子が幼稚園の発表会で白雪姫の王子様。なんという巡りあわせか。息子の組は最後の演題で大トリ。しかも予想通り、息子の出番は最後の最後。
終了後、先生が来て、「●●君、頑張りました。褒めてあげてください。」と言って来たので、「実は、私も幼稚園のときに白雪姫の王子様を演じました。」と告げたら、「すごーい、親子二代で王子様なんですねー。」と言ってくれた。正直、悪い気はしなかった。


--------------------------------------------------------------------------------------

*1:『リーサル・アカン』シリーズの第1弾から第3弾までは、以下の通りである。
第1弾:第1話「リーサル・アカン」
第2弾:第6話「リーサル・アカン2/そりゃないぜ!」
第3弾:第11話「リーサル・アカン3/ミステリーゾーンへようこそ!」
 
*2:“米国らしい”、ついでの蛇足である。当該社、会社紹介のプレゼン時に「うちは全米でもトップクラスで離職率が低いのですよ!」と自慢げに言っていたのだが、コレッて何の意味だったのか? 離職率の低さが自慢になるというのは、いかにも米国らしいと言えるが、良く考えれば、離職率が低いことと優秀な人材が揃っていることとは無関係だよなー。単に給与が良いだけなんじゃね!?
 
*3:参考「クロスチェックとダブルチェックの違いとは?」の説明の一例。
https://chewy.jp/businessmanner/20664/

執筆者について

経歴 ※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

連載記事

コメント

コメント

投稿者名必須

投稿者名を入力してください

コメント必須

コメントを入力してください

セミナー

eラーニング

書籍

CM Plusサービス一覧

※CM Plusホームページにリンクされます

関連サイト

※関連サイトにリンクされます