省令改正案検討の経験からみるGMP省令改正のポイント【第5回】

第8条の2から第9条について解説する。
交叉汚染の防止(第8条の2)
本条は厚労科研班検討後の公布に至る最終段階で追加されています。本条に関する技術面でのグローバルな流れへの対応は第9条で説明されています。課長通知には、交叉汚染防止の措置をとるにあたりQRMの活用を要すると記載されていて、EU-GMP及びPIC/S GMP Part Iの概念と一致します(第9条参照)。実際に起きた最近の問題には、2018年のニトロソアミン生成に伴う汚染⑴、2019年のドーピングの禁止物質の混入等があり、交叉汚染防止の関心が高まっている背景があります。
構造設備(第9条)
第9条は第1項と第2項で構成されます。厚労科研班での新たな提案は第9条第1項第5号のロ及び第2項です。それ以外はほぼ従前どおりのため、第1項第5号と第2項を解説します。大きな括りは、第1項は省令が適用される品目の設備共用、第2項は省令が適用されない物品との設備共用に対する規制です。
第1項の冒頭及びイの趣旨は従前どおりです。ただし、冒頭の括弧内「密閉容器に収められた製品等のみを取り扱う作業室及び製品等から採取された検体のみを取り扱う作業室を除く」は、厚労省で最終化の際に追加されました。前者には「密閉容器に収め」という書きぶりゆえに若干明確さを欠くと思われ、今後GMP事例集にて触れる必要があるでしょう。考えうる例では製剤で内袋包装後の二次包装作業を指すとみることは可能でしょう。
第1項第5号ロはグローバルの流れをみた追加で、Health-based Exposure Limit(HBEL)です。2015年のEU-GMPの3章・5章の改正をきっかけに、PIC/Sでは2020年にHBELに関するガイドライン及びQ&Aが出されました(課長通知参照)。なお、基本思想は既にQ7のQ&A(2015年)4.1・4.2に記載されています。リスクベースの封じ込め(設備共用・専用化の対応を含む)に対する考え方を追加すべきとの意見がICH Q7実施作業部会に寄せられ、これに対応してQ&Aを検討した経緯があります。起草は日本側に当てられ筆者が骨格を提案しましたが、当時協議したUS、EU委員の認識からもISPEのBaseline Guide Risk-MaPP ⑵を参考にしています。
第1項第5号に対する製造所の対応について考察します。第5号イは、ペニシリン類、セファロスポリン類等の強い感作性を有する製品等(課長通知)を指す従来どおりの考えとなります。ロへの対応は、イ該当物質を除いてHBELの基本思想に基づきます。着目する物質において交叉汚染を防止する適切な措置がとれない場合は専用化し、かつHVACを別系統にする(分離)等により物質の漏出を防止する(封じ込め)ことが省令条文で求められます。この交叉汚染防止の適切な措置に強い薬理活性や毒性を考慮した残留許容基準の設定等が求められ、HBELが参考になると課長通知はいっています。HBELでは残留許容基準としてPDEを求めているので、先ずはそのような基準値を立てる必要があります。原薬の場合等、どの程度(中間体など)まで対応できるかという問題があり、これに対応するためにはAPICの洗浄バリデーションのガイド⑶等を参考にするのがよいでしょう。除去の他に不活化があります。GMP省令は原薬にも適用されることからこの表現があると推察しますが、現実的に不活化したものが残留することについて当局側が認めるかは個別の判断となるでしょう。なお、残留許容基準まで最終の製品(原薬含む)に残存していいかということは議論が尽きないようですが、EU加盟国当局のある査察官に確認した経験では、HBELは製品へ残留したことへの言い訳に用いるものではなく、最終の製品には検出されるべきではないということでした。HBELは患者への安全を科学的に考慮すべきというのが原点で、最終の製品中に別の物質が残存することは承認規格である不純物プロファイルの観点からも問題となるため、洗浄バリデーションの基準とは切り分けて考える必要があります。結果的に製品に汚染が見られた場合、先の第8条の2にかかってきます。もっとも、承知のとおり残留許容基準を求める式には安全係数など複数の歯止めがかけられているはずで、製造所にはこれを駆使する義務があります。洗浄バリデーションの事例で新製品等に対して陥りがちだったのは監査対象の製品に対する洗浄性のデータのみを示す事例で、交叉汚染防止の考えは当該製品に他物質が交叉汚染しない洗浄方法が関連する製造ラインで確立していることという観点から、共用する全品目との関連を監査者にデータをもって示す必要があります。HBELの原理から後続する品目ごとに基準値が異なるいわゆる洗浄マトリックス(Matrix approach)が製造所にあるはずですが、現行のGMP事例集に書かれるように製造ラインを代表する指標や安全係数を用いたワーストケースシナリオを設定することにより、ラインに対し一つの基準値で運用することも理論的には可能です。
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