医薬品開発における非臨床試験から一言【第20回】

トランスポーターの検討による薬物動態試験の評価ポイント

トランスポーターと薬物動態について解説します。前回テーマの蛋白結合は、非結合型薬物濃度による受動輸送を支配し、一方のトランスポーターは組織への能動輸送を支配しています。これらが合わさった細胞内への輸送あるいは排出の結果、体内分布が決定され、総合的な解明が重要と考えています。

細胞は細胞膜を介して栄養物質を取り込み、代謝産物を細胞外に排泄することでその生存が可能となります。細胞膜は脂質二重層のため、脂溶性の疎水性物質は単純拡散により通過できますが、水溶性の親水性物質は細胞膜を透過できず特殊な通過路を必要とします。これがトランスポーターのような膜輸送蛋白質の役割です。

有機物質のトランスポーターは内因性物質だけでなく、薬物や環境化学物質を含む多くの外因性物質を認識するものがあります。この「多選択性」の輸送もトランスポーターの特徴と言えます。トランスポーターは大きく2種類に分類できます。ATPの加水分解エネルギーを利用して能動輸送を行うABC(ATP-binding cassette)ファミリーと、共輸送・逆輸送・単輸送などを行うSLC(Solute carrier)ファミリーに分けられます。

ABCトランスポーターは、ABCA~ABCG までのファミリーに分類され、ヒトは49種類のABCトランスポーター遺伝子が同定されています。肝臓や腎臓、血液脳関門や腫瘍組織において、ATPのエネルギーを用いて各種薬剤や生体異物を輸送します。排出型ABCトランスポーターとしては、多剤耐性蛋白質(P-glycoprotein ; P-gp、MDR1)、BCRP(Breast Cancer Resistance Protein)、BSEP(Bile Salt Export Pump)などが知られており、薬剤の吸収・分布・排泄などに深く関与しています。

SLCトランスポーターは現在 SLC1~SLC51までのファミリーに分類され、ヒトにおいてはゲノム配列の解明に伴い378種類のSLCトランスポーター遺伝子が同定されています。薬物トランスポーターには、OCT(Organic cation transporter)、 OAT(Organic anion transporter)などがあり、生理物質を運ぶトランスポーターには、GLUT(Glucose transporter、SLC2)などがあります。

トランスポーターが生理機能に重要な働きを行っている事例としてGLUTについて説明を加えます。グルコースは、ほとんどの細胞の代謝に不可欠な基質です。しかし、グルコースの分子は極性を持っているため、生体膜の通過に特別な膜輸送を必要とし、組織・臓器により、特性の異なるGLUTが働いています。

GLUT2は、肝細胞と膵β細胞などに発現し、肝臓で産生されたグルコースを血液循環に供給し、また膵β細胞は血中グルコースをモニターしてインスリン分泌を制御していると考えられます。腎の尿細管上皮細胞では、グルコースを再吸収し、胃および小腸の上皮細胞では、単糖類(グルコース、ガラクトース、フルクトース)を取り込み粘膜上皮細胞から門脈循環へと輸送しています。GLUT1は赤血球や血液脳関門のような内皮細胞に発現し、細胞呼吸の維持に必要最低限のグルコース取り込みに深く関わっています。GLUT3はおもに神経細胞に発現し、エネルギー供給を担っています。GLUT4は脂肪組織と横紋筋(骨格筋および心筋)に発現しています。

執筆者について

経歴 ※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

連載記事

コメント

コメント

投稿者名必須

投稿者名を入力してください

コメント必須

コメントを入力してください

セミナー

eラーニング

書籍

CM Plusサービス一覧

※CM Plusホームページにリンクされます

関連サイト

※関連サイトにリンクされます