医薬品品質保証こぼれ話【第31回】

2021/02/26 品質システム

GMP対応のホンネとタテマエ

日本人の多くは何ごとにつけて、ホンネとタテマエを使い分け、日常を過ごしているのではないでしょうか?これによって、人間関係に波風が立たず、日々の営みや業務が円滑に進んでいるという面があることは否定できませんが、この日本人の特性が様々な法律や規則への順守性という側面において発揮されるとどうなるでしょう。例えば、中学や高校などにおける校則の順守について考えると、校則は生徒の行動の自由を制限するものが多く、中には生徒にとってどうしても受け入れない規則もあります。そういうとき、多くの生徒は内心では納得できていなくても我慢して順守しますが、中には校則に背く生徒も出てきて問題となります。交通安全に関する規制などについても同じようなことが言えます。スピード制限の規制、一方通行などの通行規制、駐車禁止など、これらはある状況下では必要性が感じられない場面があり、時に、そのルールを認識していても違反する者が出ます。こういった法律や規則はタテマエとしては順守の必要性を理解していても、ホンネでは“何故だめなの?”、とか、“見つからなければ大丈夫!”といった気持ちに誘われ、また、その行為を正当化する理由を探すなどして違反に至ることがあります。こういった考えや行為は、人間の弱さの一面かも知れません。

このような法律や規則は、その規制の意味・本質を深く理解しない限り、なかなか順守が徹底されません。医薬品製造販売業における様々な法違反も同様に、欧米のGMP規制への調和の動きなどに対し、ホンネでは、ここまで厳しくする必要があるのか、などと思いながら、タテマエとしては必要な文書や記録を作成し、行政査察に合格できるよう最低限の整備を進めるという現状もあります。こういった対応姿勢、つまり、ホンネとタテマエのギャップを認識しながら対応することがGMP対応の形骸化を招き、それが、時に、重大な品質トラブルの原因になると考えられます。特に、経営陣やマネジメントに関与する者がこのような認識の場合、その考えが現場職員にも伝播・浸透し、長い時間の経過の中で、それが組織風土や品質文化として定着することになります。一旦、定着したこのような組織の風土や文化は慣習となり、そう簡単には改善されません。こういう状況を改善するためには、その規制の目的・意味・本質を、先ず経営幹部が理解し、それを順守することの重要性をタテマエではなくホンネとして関係者に周知する必要があります。
 

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執筆者について

浅井 俊一

経歴 1974年ロート製薬入社。品質管理・薬事・品質保証の各業務にそれぞれ7年・15年・16年間従事。退職後、2018年まで中国の原薬工場および国内受託企業において、改善・人材育成を含む品質保証全般に携わる。
中国での活動に、「新薬事法下の日本の医薬品品質保証体制」(2009/上海),「日本に輸出するための原薬品質の要件」(2017年/杭州)などの講演や、北京CFDA(現, NMPA)主管「医薬経済報」への「中国原薬の品質確保の視点」の連載(2012年)などがある。
取り組みテーマは「製薬工場のヒューマンエラー対策」,「中国等の海外原薬の品質と安定供給の確保」,「GMP記録の信頼性確保」,「組織コミュニケーションの活性化」,「作業者のモチベーションの確保」など。
著書に「改訂版GMP教育訓練マニュアル」(㈱じほう、共著),「3極対応/試験検査室管理実践資料集」(㈱情報機構、共著)などがある。
元,日薬連品質委員会常任委員。元,日本OTC医薬品協会品質委員会委員長。元日薬連CSV検討会メンバー。 薬剤師。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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