ラボにおけるERESとCSV【第68回】

2020/09/11 施設・設備・エンジニアリング

望月 清

7.483における指摘(国内)
前回より引き続き、国内企業に対するFDA 483に記載されたデータインテグリティ観察所見(Observation)の概要を紹介する。
 
■ AAA社 2018/10/24  483
施設:原薬工場


■Observation 4
HPLCにおいてSSTの前に実施する標準品のテストインジェクションの手順書がない。

★解説:
連載第67回のZZ社 Observation1②の解説を参照されたい。同じ査察官による指摘である。


■ BBB社 2018/11/9  483
施設:製剤工場(OTC)


■Observation 1

HPLCとGCにおいて、
•    電子生データが維持されていない
•    データがバックアップされていない
•    監査証跡がない

★解説:
HPLCとGCはダイナミックレコードであるので、オリジナル形式の電子記録を生データとして維持する必要がある。電子生データの真正性を保証する場合には、厚労省ERES指針に記載されている以下の3要件が必要である(連載第2回を参照)
•    セキュリティ
•    監査証跡
•    バックアップ
「監査証跡がない」と指摘されているが、近年のHPLCとGCは監査証跡機能を持っているのが普通である。監査証跡機能を必要としないユーザーや業界があるので、ややもすれば煩わしい監査証跡機能をユーザーがオンにしたりオフにしたりできる機種がある。本指摘は「HPLCおよびGCに監査証跡機能はあったが、その機能がオンになっていなかった」というものであると思われる。GMPにおいては監査証跡機能は常にオンに維持し、全ての操作を監査証跡に記録しデータの真正性を保証できるようにしておかねばならない。監査証跡がオフになっていた理由として以下が考えられる。
①   監査証跡をオンに維持しなければいけないことをユーザーが
  知らなかった(無知)
②   不都合な操作を隠蔽するために、ユーザーが監査証跡をオフ
  にした(悪意)
③   キャリブレーションなどの保守作業を効率的に実施するために、
  保守作業者が監査証跡をオフにして保守作業を実施し、作業完
  了後に監査証跡をオンに戻すのを保守作業者が失念した(ミス)
試験に利害関係のない職員をシステム管理者とすることにより、試験に係わる職員が監査証跡のオンオフ操作を行うことができなくなり②の事象(悪意)は解消する。保守作業用のアカウントからシステム管理権限を削除することにより③の事象(ミス)は解消する。保守作業を行った場合、その間の監査証跡をすべてプリントアウトし作業者の上司がそのプリントアウトにより不正な作業がなかったことをユーザーに保証している保守業者もある。

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執筆者について

望月 清

経歴 合同会社エクスプロ・アソシエイツ代表。
1973年山武ハネウエル株式会社(現アズビル)入社。分散型制御システム(DCS)を米国ハネウエル社と分担開発。2002年よりPart 11およびコンピュータ化システムバリデーションのコンサルテーションを大手製薬会社にご提供。2009年より微生物迅速測定装置の啓蒙普及に従事。2014年5月より現職。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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