医薬品開発における非臨床試験から一言【第5回】

2020/05/08 非臨床(GLP)

製薬企業は、患者さんに医薬品を提供するために正確な情報が大切です。あえて不正確な情報を提供することはありませんが、正確な情報である根拠が必要です。提供する全ての情報が正確である根拠が信頼性基準といえます。そして、GLP基準、GCP基準、さらにGMP基準などのGXP基準が加わって、蓄積された情報が新薬の価値を支えています。

今回は、レギュラトリーサイエンスの観点から信頼性基準を解説します。幾度も述べていますが、信頼性基準は日本固有の取り決めであり、海外の規制に信頼性基準はありません。動物試験の開始時点からQAチェックを受けるGLP基準と類似点はありますが、信頼性基準のみに従っている薬理試験や薬物動態試験は試験終了後にQAチェックを受けることを原則としています(QAのタイミングは社内基準で規定)。

日本で新規医薬品の承認申請を行うと、薬理試験や薬物動態試験などの信頼性基準の試験は、GLP基準の非臨床試験、GMP基準のCMC、GCP基準の臨床試験などと同様に、PMDAから適合性書面調査を受けます。欧米での創薬研究におけるGLP基準に沿った動物試験のQCとQAの概念は信頼性基準と共通と思われます。アメリカのFDA(米国食品医薬品局;Food and Drug Administration)へのIND申請(Investigational New Drug Application)では、試験結果のレビューが行われますが、PMDAの書面調査と異なった視点になります。

グローバルな新薬開発を考えると、創薬の過程で規制当局による試験資料を確認するタイミングと視点は、日本と欧米で異なるものの、新薬として承認されると同等の信頼性が保証された根拠資料となります。ただし、日本の信頼性基準と無縁の海外で実施された試験、また探索的な試験資料をどのように創薬の根拠資料に取り入れていくかが、日本における効率的な医薬品開発の課題となります。

医薬品の価値について、日本製薬工業協会 医薬産業政策研究所 リサーチペーパーを参照して解説したいと思います。医薬品の情報をピラミッドに例えると、その土台部分に「本質的価値」があり、その上に「付加的価値」が積み上げられ形成されています。バランスのとれた情報のピラミッドが医薬品の価値を総合的に大きなものにします。
 
医薬品の価値のピラミッド

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執筆者について

内藤 真策

経歴

兵庫県出身。元(株)大塚製薬工場 研究開発部員。
医薬品開発における薬物動態からの安全性評価を専門とし、光学活性体の薬物動態、mRNA変動による肝臓の酵素誘導、薬物相互作用などの分野に注力してきた。京都大学で学位取得。現在は信頼性の基準について議論。
製薬協基礎研究部会では長年に渡り副部会長を務め、薬物動態分野のレギュラトリーサイエンスを牽引した。徳島大学客員教授、薬物動態談話会常任幹事、日本薬物動態学会および日本毒性学会の評議員を務めている。
論文は英文97報、総説3報を執筆し、共著では「ファーマコゲノミクスの進歩と創薬科学への応用」、「代謝物の安全性評価における投与量設定と投与経路選定」、「探索段階を含む非臨床と臨床段階での非GLP 試験の効率的実施事例」など10編を数える。薬剤師、趣味は写真撮影・ドライブ。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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