医療機器リスクマネジメント-国際規格の要求事項と実践対応-【第9回】

2020/04/24 医療機器

中谷 敬

ISO 14971改訂第3版発行

医療機器リスクマネジメント国際規格ISO 14971は、2007年に第2版が発行され、医療機器業界では、この第2版に基づくリスクマネジメント実施が定着している。第3版は12年ぶりの改定であるが、内容については、本質的に大きな変更は無い。このため、これまで医療機器メーカが社内で実施してきたリスクマネジメントの実施体制や文書管理体制を変更する必要はない。

第3版の変更は、主に編集上の変更に関するものである。関連して、体裁については大きな変更がなされている。

以下に、変更の概要についてまとめておく。変更の詳細について、第3版附属書B.1に第3版と第2版との対応表が記載されているので、これを参照することができる。


用語の追加

第3版の改訂では、編集上の改定以外で最も目立つものである。新たに次の定義用語が追加された。第2版では、定義されずに使用されていた用語である。
(1)  benefit(効用)
  医療機器の使用によって得られる個人の健康への良好な影響又は望
  ましい結果、又は患者看護若しくは公衆衛生に対する良好な影響。
(2)  reasonably foreseeable misuse(合理的に予見可能な誤使用)
  製造業者が意図しない製品又はシステムの使用であるが、人間の行動
  からは事前に予測可能なもの。
(3)  state of the art(最新技術)
  科学、技術及び経験を統合しての関連する知見に基づいた製品、
  プロセス及びサービスに関してのある時点での技術の発展段階。


編集上の変更

内容に関する変更ではないが、第3版の変更でもっとも目立つものである。

(1) 箇条の追加と箇条番号の変更
  箇条2として、「引用規格」が追加された。しかし、内容は「引用
  規格は無い」と述べているだけなので、実質的な変更ではない。
  箇条2の「引用規格」追加により、箇条番号及び細分箇条番号が全
  体で大きく変更されることになった。
(2) 附属書(Annex)の変更
  附属書については、主要なものが第3版からは削除され、医療機器
  リスクマネジメントのガイダンス文書ISO/TR 24971の改訂第2版
  に移行される予定である。第2版の附属書は、医療機器リスクマネ
  ジメントを実施する上で参考となるガイドライン的な記述が多かった。
  第3版の附属書は、次の3つである。
 ・附属書A:要求事項に対する根拠
       (内容は当然変わっているが、第2版でも記載されている)
 ・附属書B.1:第3版と第2版との対応を示した表
 ・附属書B.2:リスクマネジメントプロセスを示したフローチャート
       (第2版とほぼ同じ)
 ・附属書C:リスクの基本的な概念の説明


引用ISO/IECガイドの変更

定義用語の根拠となる引用ISO/IEC ガイドが変更になった。
 ・第2版の引用ガイド:ISO/IEC Guide 51, Safety aspects―Guidelines
  for their inclusion in standards)
 ・第3版の引用ガイド:ISO/IEC Guide 63:2012, Guide to the
  development and inclusion of safety aspects in international standards
  for medical devices

安全に関する国際規格は、ISO/IEC Guide 51の指針に従って制定する必要がある。ISO/IEC Guide 51は、2014年に改定第3版(対応JIS規格 JIS Z 8051:2015)が発行されたが、改定により2007年に発行されたISO 14971第2版との不整合が生じている。一方、ISO/IEC Guide 51に基づく指針ガイダンスの医療機器セクター規格として、ISO/IEC Guide 63が発行されている。改定予定のISO 14971第3版では、ISO/IEC Guide 51:2014との不整合を形式的に避けるために、ISO/IEC Guide 63を引用している。したがって、定義用語や説明の概念図などの引用が、ISO/IEC Guide 51からISO/IEC Guide 63に切り替えられている。

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執筆者について

中谷 敬

経歴 1974年、日本光電工業入社。医用センサ、生体情報計測機器の開発・設計に従事。
在職中、IEC/SC62D、ISO/TC121/SC3の日本国内委員会幹事として、医療機器国際規格の制定・改訂作業に参加。国際エキスパートとして日本コメントの作成・まとめを行い、国際会議に参加しての日本意見の反映に尽力した。
定年退職後は、コンサルタントとして独立。各種セミナー講師の他、首都圏の大学で客員教授、非常勤講師として医療機器技術、医療安全、国際規格について講義している。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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