ICH Q3Dガイドラインに対応した医薬品の元素不純物評価

 医薬品の安全性がますます重要になる中で、医薬品中の不純物の厳しい管理が求められています。医薬品の品質、有効性、安全性に関するガイドラインを作成している日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)では、不純物の管理についても議論を重ね、不純物に関するガイドライン(ICH Q3)を公開しています。
 当社では、製剤や原薬中の不純物や異物の分析、容器施栓系由来の不純物の評価、さらには製造設備のオンライン分析によって、品質管理、許認可申請、技術開発をトータルサポートしています。その技術のいくつかをご紹介いたします。

1.ICH Q3Dガイドラインとは
 医薬品中の元素不純物は、これまでも薬局方で規定された重金属試験法で評価されてきました。しかしながら、この重金属試験法は限定された種類の元素の総量を鉛として求める方法で、元素不純物の評価としては不十分でした。
 2015年9月に、医薬品の元素不純物ガイドライン(ICH Q3D)が日本でも発出され、元素の毒性や混入リスクに応じた24元素の経口剤、注射剤、吸入剤の許容一日曝露量(PDE)が決められました。2017年4月1日以降に申請承認される新製剤については、製剤中の対象元素不純物に関して、十分なリスクアセスメントと許容濃度限度値を超えずに適切に管理する方法の設定が求められています。
 Q3Dガイドラインの薬局方への取り込みも進められており、2019年6月28日に第十七改正日本薬局方第二追補の一般試験法に「元素不純物試験法」が、参考情報に「製剤中の元素不純物の管理」が収載されました。第十八改正日本薬局方では、試験法と管理規定が統合された一般試験法「元素不純物」に従って適切な管理が求められると考えられています。第二追補で元素不純物の管理の考え方と試験法がまず提示され、一定の猶予期間を設けた上で、第十八改正日本薬局方によりICH Q3Dガイドラインを踏まえた元素不純物の管理規定が措置される予定です。

2.元素不純物のリスクアセスメント
 Q3Dガイドラインでは、製剤中の対象となる元素不純物についてのリスクアセスメントが求められています。製剤中の元素不純物量は、実測値が必ずしも求められておらず、原薬や添加剤製造業者の提供データ、データベースや公表論文等の情報をもとにした予想値からもリスクアセスメントを実施することができます。一方、リスクアセスメントの結果、ガイドラインで設定された管理閾値(製剤のPDE値の30%のレベル)以上の元素不純物の存在が疑われる場合は、PDE値を超えないことを保証する管理方法を設定する必要があります。この場合、混入源を特定して再度リスクアセスメントをする必要が出てきますが、元素不純物混入の潜在的な起源は、原薬、添加剤など構成成分のみならず、容器施栓系、製造設備と多岐にわたります。当社では医薬品中の元素スクリーニングや元素不純物の測定だけではなく、溶出試験による容器施栓系からの混入元素の特定、オンサイト分析や溶出試験による製造設備からの混入リスクの評価など、混入経路の調査を含めたICH Q3Dガイドラインに対応した元素不純物の評価を提案しています。

3.当社の元素不純物試験
 医薬品中の元素不純物濃度をPDE値と比較する個別評価が始まったことで、元素不純物試験は測定感度の高い誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)による評価に移行しています。ICP-MS分析は、評価元素が多岐にわたり、かつPDE値が低い元素では0.1ppm以下の評価が必要となる元素不純物試験にとってなくてはならない分析方法です。
 当社では、2016年からICP-MSによる元素不純物試験を受託しています。日本薬局方に試験法が収載されるまでは、米国薬局方の元素不純物試験法(USP<233>)を用いて、正確かつ精度よい試験を提供してきました。もちろん、第二追補に収載された元素不純物試験法での実績もあります。
 これまでに、100を超える医薬品や医薬品の構成成分の元素不純物を評価してきました。元素不純物試験法は第二追補に収載されましたが、その試験法に従って評価する場合においても、対象物質や評価する元素濃度によって、試料の溶液化条件やICP-MSの分析条件が異なるため、事前検討で対象物質ごとに適切な条件を選択する必要があります。製剤には、原薬に加えて多種類の賦形剤や安定剤などの添加剤が混合されていますが、鉱物由来の賦形剤が容易には分解しない場合があることから、賦形剤の完全な分解は試験実施のポイントとなります。たとえば、鉱物由来の添加剤であるタルクや酸化チタンは、元素不純物の含量が高いことが知られていますが、難分解性物質であり、酸を添加するだけでは溶液化が困難です。当社は、材料分析における試料の完全分解技術を適用することで、数多くの賦形剤や賦形剤を含む製剤中の元素不純物を正確に評価してきました。また、µg、ngレベルの分析が必要になるPDE値との比較評価においても、金属・半導体・有機材料など様々な分野で培った極微量元素分析技術が役に立っています。
 元素不純物の評価においては、お客様の評価目的や管理基準に応じて、医薬品や医薬品の構成成分中の元素不純物のスクリーニング、試料の分解法ならびに分析法の提案、提案した分析法のバリデーション、限度試験、定量試験を提供しております。元素不純物評価の流れの一例を図1に示します。
 
図1 元素不純物試験の流れ



 すべての試験は、汚染を抑える目的で図2に示すようなクリーンルーム内で実施します。試料を分解して溶液化する方法を事前に検討した後に、スクリーニングにより考慮すべき元素を抽出し、PDE値に基づいた分析濃度範囲に適した元素不純物試験法を提案します。提案した試験法はバリデートして、定量試験もしくは限度試験によるロット分析を実施します。
 
図2 クリーンルーム内のICP-MS装置


4.容器施栓系からの元素不純物
 医薬品は製造、輸送、保管及び投与の過程で、包装システムの材料と化学的相互作用を生じる可能性があり、包装システム由来の不純物のモニタリングと抑制が急務となっています。米国食品医薬局(FDA)のデータによれば、至近では、1年間で1000件といった規模でリコールが発生しています。そのため、包装システム由来の不純物に関して高感度かつ高精度な評価方法が求められていますが、日本では検討中であり標準化された規格が無いのが現状です。
 包装材料からの不純物調査にはE&L法が用いられています。初めに過酷な条件下で材質から抽出される可能性のある抽出物(Extractables)を求めます。リスクアセスメントにより管理すべき元素を決定し、実際の製造や使用条件下で浸出試験を行い医薬品中に検出される浸出物(Leachables)を評価して行います。それらを合わせた評価法がE&L法と呼ばれています。
 当社では、医療機器分野において培ってきた溶出試験のノウハウや医薬品中の元素不純物分析技術を基に、海外での試験方法を取り入れたE&L評価法を構築しました。一例をあげますと、ブチルゴム栓付バイアルから溶出リスクのある元素について米国薬局方を参考に評価したところ、ブチルゴム栓をイソプロパノール抽出ではSbが検出されました。Sbは経口投与では毒性は低いものの、吸入及び注射による投与ではリスク評価が必要です。また、ガラスの抽出物でも重金属が検出されています。
 このように、容器施栓系の材料に合わせた溶出試験をデザインすることがポイントとなります。検出された元素についてリスクアセスメントを実施し、試験法の確立、分析法バリデーション、容器施栓系からの混入を含めた製剤の元素不純物評価を提案いたします。

5.元素不純物の管理に向けて
 Q3Dガイドラインは、欧州では2017年12月より、米国では2018年1月より既存製剤を含むすべての製剤への適用が始まっています。日本では新規製剤にのみ適用されていますが、2021年告示予定の第十八改正で薬局方での管理に向け準備が進められています。
 当社では、金属・半導体・有機材料など様々な分野で培った分析技術を駆使して、医薬品中の元素スクリーニングや元素不純物の測定、溶出試験による容器施栓系からの元素不純物混入リスクの評価、オンサイト分析・溶出試験を用いた製造設備からの混入経路の調査を含めたICH Q3Dガイドラインに対応した元素不純物の評価を提案していきたいと考えております。

 
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