医薬原薬の製造【第14回】

2015/08/20 原薬

結晶化後の問題点
結晶化が終わった後のスラリーは、ろ過、乾燥されて、最終原薬製品となります。結晶化、ろ過、乾燥で良く起こるトラブルとそれに対する対処法を逐次考えていきたいと思います。
 
1. 油状物がスラリーに混ざる
2. スラリーの沈降性が高すぎて配管を輸送できない
3. スラリーをろ過器に輸送する際、結晶化槽の壁についた塊状の結晶が残る
4. スラリーをろ過する際、結晶が圧縮されてろ過が遅い
5. スラリーをろ過した時に、ケークにひび割れが生じて、効率的に洗浄ができない
6. ろ過ケークの再スラリー化ができない
7. 湿ケークを乾燥する際に、残留溶媒に結晶が解ける  

1.油状物がスラリーに混ざる。
これは、結晶化がうまく行っていないことを示しています。結晶化速度が速すぎる場合、油状物の生成が良く認められます。このような場合は、結晶化を少し遅らせるようにすると良いことが多いです。結晶化の温度低下をゆっくりにする。貧溶媒の滴下速度を下げるという方法が取られます。
 
2.スラリーの沈降性が高すぎて配管から輸送できない。
結晶の大きさが大きすぎて沈降性が高すぎる場合にこういうことが起きます。結晶径を少し小さくすることが必要です。スケールアップの再結晶のときは、撹拌しながら結晶化を行いますが、この際の撹拌速度が遅すぎると結晶径が大きくなりすぎることがあります。こんなときは、結晶化時の撹拌スピードを上げてやることが必要になります。
 
3.スラリーをろ過器に輸送する際、結晶化槽の壁についた塊状の結晶が残る。
ラボスケールの再結晶では、静置結晶化が行われることが多いです。この場合、フラスコ中やフラスコの壁に大きな結晶がへばりつくことがあります。ラボスケールでは、フラスコを撹拌して塊を破壊したり、また塊のままブフナーロートに入れてろ過してしまいます。スケールアップする場合、これらの方法は取れません。なぜならば、再結晶後のスラリーは配管を通じてろ過器に送られるからです。大きな結晶の塊は、配管から送ることができませんし、配管中の狭い部分に引っかかってしまって、配管を詰まらせるような場合もあります。
 
結晶化槽の壁についた塊状結晶ですが、以下のような方法で処理します。
●壁に結晶が付かないようにする。撹拌速度を調節してできるだけ壁に結晶が付かないようにします。それでも、再結晶のロットを重ねると塊の結晶が大きな塊に成長していくことがあります。
●結晶化槽に再結晶に使用する溶媒を入れ、還流して塊を溶解する。溶解した液は、次バッチの再結晶溶媒として使用する。この場合、3ロットのPV(プロセスバリデーション)が必須です。PVが完了するまでは、収率が若干悪くなるのを覚悟で、溶解液はすべて捨てます。
 
4.スラリーをろ過する際、結晶が圧縮されてろ過が遅い。
これは、非常に頭の痛い問題になります。結晶のろ過では、結晶の厚さがラボスケールとは比較にならないほど大きくなります。ろ過抵抗が非常に大きくなります。このようなトラブルを避けるために、スケールアップ検討では、ろ過時間を測定しておかなくてはいけません。まず、ラボスケールでろ過速度を測定しておきます。単位はL/min/m2です。フィルターの単位面積あたりのろ過液量(L/min)という数値です。この数値でろ過速度を判断していきます。ただ、ろ過されたケークの厚さが大きくなっていくと、ろ過抵抗が飛躍的に大きくなることがあります。ラボスケールでもこのような傾向は確認することができます。ラボスケールで、ろ過速度が問題になりそうな場合は、シリカゲルカラムに使う長いカラム管を使ってケーク長を長くしてろ過速度を測定すると良いでしょう。スケールアップ時のろ過速度をかなり精度良く予想することができます。
このような手段を使って、ろ過速度が問題にならないような再結晶条件を検討しておくことが、ろ過速度が遅いというトラブルを未然に防止する良い方法となります。

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執筆者について

森川 安理

経歴 アンリ・コンサルティング 代表。
大学修士課程で有機化学を専攻後、1977年旭化成工業(株)入社。スクリーニング化合物の合成、プロセス化学研究に一貫して従事。この間薬学博士号取得。その後、医薬原薬の工場長を10年経験。工場長として、米国、イタリア、豪州、韓国の当局の査察および、制癌剤を中心にする治験薬の受託生産を経験。旭化成ファインケム(株)を2013年2月末退職。2013年3月より現職。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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