業界雑感 2018年6月

2018/07/20 その他

 アメリカのトランプ大統領が本気で自動車の関税を上げるのではないか、との心配が広がっている。大統領選以来一貫して米国内での雇用拡大、貿易赤字を問題にしてきたのだから、11月の中間選挙に向けていよいよ本丸に切り込む必要があるのだろう。
 アメリカで日本製の自動車がシェアを伸ばしてきた要因の一つには、その信頼性すなわち品質の高さがあったからだと思っている。もう25年以上も前になるが、ある異業種の生産関係の人を対象とした研修に参加した時のことである。当時まだ駆け出しのマネージャーだった自分が、グループディスカッションの中で名だたる日本の代表的製造業の諸先輩を前に、「人の命を預かっている医薬品だから、その品質を確保していくことは最重要である」みたいなことを偉そうに言っていたのだと思う。その時、その議論を黙って聞いていたある自動車メーカーの方に、「俺たちだって、人の命を預かっているんだ」と、ボソッと言われたことばに衝撃を受けたことを今でも鮮明に覚えている。医薬品と自動車を比較するのはいささか乱暴という意見もあるかと思うが、製造業としての付加価値をビジネスとして提供しているという意味では共通点があるといえる。

 欧米と日本とで品質に対する考え方を比較すると、それは文化の違いであり、端的に言うとAQL(Acceptable Quality Level)とZD(Zero Defects)の違いと説明している。正確に言うとAQL/ZDのどちらも欧米発の考え方であり、AQLが抜き取り検査における合格品質水準として使われるのに対し、ZDはZD運動といって無欠点で仕事をしようという標語であり作業改善活動が発端なので、意味合い的にも多少違うものなのだが、ある程度の不良があっても品質水準として受け入れ可能とする欧米と、一つでも不良を出してはならない、また一つの不良が全体の品質を代表してしまうといった、日本の文化を象徴する考え方としてわかりやすいので、そういう説明をさせてもらっている。「日本の医薬品は過剰品質」という議論はあたらないとするのは、この日本の文化によるものだと考えている。
 品質に限らず、製品としての機能であったり、商品としてのブランドであったりといった、有形無形の付加価値をマーケットに合わせて提供していくのが製造業のビジネスであり、日本の自動車メーカーは米国向けにその機能やデザイン、燃費の改良など現地で受け入れられるよう努力を重ね、販売を伸ばしてきた。これに対しアメリカのメーカーは日本の住宅や道路事情に適さない中・大型車が中心で、燃費でも劣る。日本車は故障が少ない、は今ではイメージだけかもしれないが、こういったイメージがブランドを作ってきたのも事実である。ビジネスマン出身の大統領なのだから、そのあたりのことも当然理解していると思っているのだが、落としどころはちゃんと見えているのだろうか、積み上げてきた国際社会のルールを無視したゴネ得は許してほしくないと思う。
以上

執筆者について

村田 兼一

経歴 村田兼一コンサルティング株式会社代表取締役。
1978年藤沢薬品工業(現アステラス製薬)入社。注射剤製造、無菌バリデーション技術開発、FDA対応、基幹システム(SAP)開発等に従事後、生産本部にて中期戦略企画、工場分社化推進・合併準備委員会に携わる。合併後のアステラス製薬では、戦略企画の後、製造委受託の推進を担当する。
2012年に退社し、村田兼一コンサルティング株式会社設立。工場の原価をはじめとする計数マネジメントを中心に、SAP開発を含むサプライチェーン全般の管理・改善を専門とする。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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