業界雑感 2018年4月

 製薬企業のM&Aが海外で活発になってきたのは1995年頃からだと記憶している。ファルマシア、アップジョン、サンド、チバガイギー、ヘキスト、マリオンメレルダウ、ファイソンズ、ウェルカム、ビーチャム等々、懐かしい社名が20年そこそこの間に消えていった。ファイザーモデルとも言われていた積極的な大型買収により、買収した企業が持つ薬剤も手にして成長していくというビジネスモデルで生き残った企業が現在のグローバルメガの大半を構成している。2010年前後までの業界再編はそういったファイザーモデルに代表される規模の拡大、製品の獲得を目的としたM&Aが中心だったのだが、ここ数年は少し様相が変わってきていると思っていた。もちろん2016年のファイザーのアラガン買収断念など、大型のM&A案件の話題がないわけではなかったのだが、同じM&Aでもジェネリック事業への展開やバイオベンチャーの買収で新たな分野を開拓するといったことや、得意領域やコア領域の強化であったりして、それぞれの企業が規模拡大より多様なビジネスモデル・戦略に向け動き出していた。

 日本の製薬企業も一時はグローバルメガを目指してM&Aを繰り返していくやに思えた時期もあったのだが、グローバルなバイオ薬の伸張や国内市場の環境変化で、メガを目指すというよりスペシャリティ領域にフォーカスして生き残りを図る戦略に変わりつつある。
そんな中で、武田薬品工業がアイルランド製薬大手のシャイアーを買収する方向で最終調整に入ったとのこと。武田薬品といえば、これまでも2008年に米バイオ製薬ミレニアムを9千億円で、11年にはスイス製薬のナイコメッドを1兆1千億円で買収するなど大型M&Aに積極的に取り組んできた。昨年1月に米アリアド・ファーマシューティカルズの買収に6千億円超の金額を投じたのに続き、直近でもベルギーのバイオ医薬品企業TiGenix社を700億円で買収したばかりである。実現すれば460億ポンド(約7兆円)という、日本の医薬品企業というだけでなく、日本企業として過去最大の買収案件となるとのことであり、国内製薬業界の悲願でもあったグローバルトップ10にようやく1社が名を連ねることができるということになる。

 今回の買収が成功しても、シャイアーの高収益の源泉なっている新薬の特許は2021年ごろから切れるといわれている。巨額の資金をつぎ込んで会社ごと吸収するというファイザーモデルのM&Aが古典的とも言われはじめているのは、一旦この戦略を取り始めたら後戻りできないという側面があるからだろうと思う。しかしながら、日本の製薬企業はその活動のベースとなる日本国内市場では医療費の伸びを薬価で調整する政策がここ数年さらにこの先も続くと予想され、画期的新薬を開発してもモグラたたきのように薬価を抑えられるのでそれ以上の成長が見込めず、じり貧となることも想定され、必然としてグローバルの市場で勝負していかざるを得ないのも事実である。

 有利子負債の増大や、統合後に効果がうまく出せなかったり、利払い負担が経営の重荷となったりするリスクも想定され、株式市場では武田株は下落が続いている。そういった市場の評価もはねのけて、日本発の初めてのグローバルメガファーマとして頑張ってもらいたい。
以上

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