業界雑感 2016年9月

2016/10/30 その他

 築地市場の豊洲移転問題が迷走している。小池新都知事が最終の土壌調査の結果を待たずに移転することに疑問符をつけ、移転延期を決めたことに始まっているのだが、次から次と問題が発覚し、ここぞとばかりにマスコミも騒ぎ出し犯人探しにやっきとなっている。もはや土壌汚染対策問題から政治のパワーゲームに移行しているとしか思えない。この問題の落としどころは、小池都知事がすでにイメージしているかどうかは別にして、結局は政治的に力のあるところの思いに従うのだから周りがどう騒いでも無駄という気がしないでもないのだが。

  ○○党都議団が現地調査に入って持ち帰った地下のたまり水の分析結果から、シアン化合物や鉛が検出されたので食の安全性に不安がある、と荒唐無稽な議論もあった。そもそも地下の土壌汚染が、その上の建物内で取り扱っている食品の安全性にどの程度の影響があるのか、そういった検証結果やデータはどこにあるのか、それを言い出すのであれば、福島原発の放射能汚染のほうがよほど安全上はリスクがあると思うのだが、そちらのほうは「安全宣言」という錦の御旗のもとに政治が議論を収束させてしまっている。

  水の分析結果一つとってみても、ビデオをみると単に素人がそのへんにあるジャムの空き瓶のようなものを持って行き、適当に水をにごらせたうえで汲んだ水なのであるから、どこまで信用できるのかはなはだ疑問である。空き瓶に何らかの残渣が残っていた可能性、サンプリング者の手や水に入った長靴になにかが付着していた可能性、サンプリング後の検体の管理など、こういった分析をする場合、サンプリング方法も含め、きちんとプロトコールを作り、責任者が確認、承認したうえでサンプリングにあたってもサンプリング容器の準備・採取ポイント・方法・採取後の検体管理など最新の注意を払って行うのが科学の常識ではないのだろうか。

  試験にしても、ブランクの値(今回の場合は飲用等に一般的に用いられている地下水や雨水を直接に収集したものなど)との比較や、安全基準となる基準値と合わせて発表がなければ、問題があるのかないのかも判断はつかないはずである。そういう意味でこの水の分析を請け負った分析機関の科学者(といえるのかどうか?)は何を考えていたのだろうか、と思わざるを得ない。

  医薬品製造の世界でも、異常逸脱の処理を議論する際は、その判断の根拠となるデータを参照し、現場で現物を確認しながら問題の有無を検証していく必要がある。恣意的に作られたデータや、現場の状況も確認しないで議論をすることはあってはならない。そのうえで、異常逸脱が及ぼす影響(豊洲問題で言えば政治的背景)なども考慮したうえでの結論であれば、九分九厘その処理に間違いはないと考えている。

  豊洲市場問題は科学の問題はとっくに忘れ去られ、まだしばらく続きそうである。 


※この記事は「村田兼一コンサルティング株式会社HP」の記事を転載したものです。
 (2016年8月以前の業界雑感は、こちらでご確認ください。2015年度 2016年度

執筆者について

村田 兼一

経歴 村田兼一コンサルティング株式会社代表取締役。
1978年藤沢薬品工業(現アステラス製薬)入社。注射剤製造、無菌バリデーション技術開発、FDA対応、基幹システム(SAP)開発等に従事後、生産本部にて中期戦略企画、工場分社化推進・合併準備委員会に携わる。合併後のアステラス製薬では、戦略企画の後、製造委受託の推進を担当する。
2012年に退社し、村田兼一コンサルティング株式会社設立。工場の原価をはじめとする計数マネジメントを中心に、SAP開発を含むサプライチェーン全般の管理・改善を専門とする。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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