ラボにおけるERESとCSV【第37回】

7.483における指摘(国内)
前回より引き続き、国内企業に対するFDA 483に記載されたデータインテグリティ観察所見(Observation)の概要を紹介する。
 
■M社 2016/7 /22 483
Observation 1
電子記録が使われているが、確かであり、信用でき、紙記録と同等であるための要件を満たしていない。特にQA部門が;
1) リスクアセスメントを実施せずにバリデーションのタイプを決定しており、バリデーションSOPを逸脱している。そしてEmpower3をインストールするにあたり、現在の規制要件を検討しなかった。
2) 米国へ出荷したバルク製剤および錠剤を出荷承認する前に、電子生データをレビューしていない。
3) 米国へ出荷したバルク製剤および錠剤を出荷承認する前に、監査証跡をレビューしていない。
4) 米国へ出荷したバルク製剤および錠剤のラベル発行と帳尻会わせの管理ができておらず、印刷したラベル数が管理されていない。
5) バッチ承認に使用したテストデータについて、電子生データの保存と復元が正確で完全であることを管理し検証していない。
6) 分析ワークシートの発行が管理されておらず、記録管理システム Opera-Docから分析ワークシートを何回も印刷できてしまう。
 
★解説:
1)項について
①バリデーションのタイプ
バリデーションのタイプとは、いわゆるバリデーションアプローチであると思われる。おそらく、厚労省「コンピュータ化適正管理ガイドライン」における別紙2「カテゴリ分類表と対応例」を参照して、FS、DS、DQ、IQ、OQ、PQなどの対応事項、すなわちバリデーションアプローチを策定したのではないかと推測する。別紙2は例示にすぎず、(国際的な)規制要件ではないことに留意すべきである。メガファーマのオーディットにおいて「別紙2にしたがってバリデーションアプローチを策定した」と説明すると、「そのアプローチでよいと判断した」理由説明を求められることがある。例えば、対象システムが大変クリティカルなシステムであるにも係わらず新製品(たとえば出荷1号機)であり、供給者がGMPに不慣れであった場合、別紙2におけるカテゴリ3のバリデーションアプローチをそのまま採用することは不適切である。GAMP 5のテゴリー3の説明には「カテゴリ3であっても、複雑で高リスクなシステムであれば、カテゴリ4として考えること」と記載されている。

また、PIC/S Annex11の§3.3に以下の記載がある。
「市販標準製品に添付される文書をレビューし、URSを満たしていることを確認すること」これは、以下の様に解釈できる。
・ソフトウェアカテゴリ3の場合、製品に添付される取扱い説明書などによりURSが満たされていることを検証すること
すなわち;
  ▷ ベンダー監査において、取扱説明書が検証されていることを確認し
  ▷ DQにおいて、取扱説明書がURSを満たしていることを検証し
  ▷ トレーサビリティマトリクスにその検証結果を記載し
  ▷ バリデーション記録とする
・DQにおいて検証できなかったURS項目は、OQ等で機能検証すること
 別紙2においては、カテゴリ3に対し以下の様に例示されているので注意が必要である。
DQ:-(省略可能)
OQ:△(システムアセスメントの結果による:基本的には省略)
適正管理ガイドラインの別紙2に例示されたバリデーションアプローチを採用する場合、その妥当性を説明できる必要がある。別紙2のアプローチを転記するだけでは不十分である。

システムのバリデーションアプローチは以下の項目により策定し、その説明をバリデーション計画書に記載しておくことをお薦めする。
▷供給者リスク
  必要に応じ、訪問による供給者監査を実施して判定する。
▷品質リスク
  ・製品品質および患者の安全に対する影響度
  ・リスクが顕在化した場合の検出確度
▷システムリスク
  ・システム規模
  ・システム複雑さ
  ・システム新規性
  ・ソフトウェアカテゴリ
  ・ハードウェアカテゴリ

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