業界雑感 2017年11月

 中外製薬が抗がん剤フルツロンやセフェム系抗生物質製剤ロセフィンなど長期収載品13製品の製造販売承認を212億8000万円で太陽ホールディングスの子会社で本年8月に設立した製薬企業の太陽ファルマに譲渡することが発表された。塩野義製薬やアステラス製薬が長期収載品を複数品目一括譲渡してきたのと同じスキームで、先発薬メーカーが長期収載品ビジネスに見切りをつけて新薬事業に集中する、とした戦略に目新しさは感じないのだが、注目すべきは譲渡を受ける側なのかもしれない。

 塩野義製薬の製品譲渡先である共和薬品は後発薬メーカーで親会社はインドの後発薬メーカーのルビン。先発薬メーカーから後発薬メーカーへの単品単位での承継はこれまでも業界で実績があり、21製品一括という数だけがサプライズだった。アステラス製薬の製品譲渡先のLTLファーマは、投資ファンドのユニゾンキャピタルが設立した日本長期収載品機構㈱の子会社。投資ファンドということではCMOの武州製薬を買収したのが香港の投資ファンドであるベアリング・プライベート・エクイティ・アジア、という実績もあったのだが、CMOビジネスよりPMSやサプライチェーンへの責任も重い医薬品製造販売業に新規参入という意味での驚きもあった。太陽ファルマの親会社である太陽HDはプリント配線板用部材といった医薬品とはほぼ無関係の事業が主力で、医薬品事業への新規参入。ビジネスモデルとしてはLTLファーマと同様、製造はCMOを活用し、情報提供活動はコントラクトMRで、というファブレス経営である。

 以前も書いたが、医薬品のサプライチェーンをなめてもらっては困る、という思いはある。その一方で、自身も含めて製薬業界にどっぷりと漬かってきた者にはとても考えられないような発想で医薬品事業の新しいビジネスモデルを創っていってくれるのでは、という期待もある。

 製造業としての本来のミッションは安くて良いものを市場に供給することで社会に貢献することにある、と考えている。21世紀に入っての医薬品製造についてはPIC/S GMPをはじめとするGMPの国際的ハーモナイゼーション、品質リスクマネジメントの展開等々、Quality Managementにかかわるテーマが議論の中心で、継続的なコストダウンにより生産性を上げるということが置き去りとなってきた感がある。安易なコストダウンである原材料価格の低減はサプライヤーを疲弊させ、原材料起因のトラブルも増加していないだろうか。
 平成30年度に向けた診療報酬・介護報酬改定の議論が今行われている。 
 ◆市場実勢価格との乖離の大きい品目に限った薬価の毎年改定 
 ◆適応拡大などに伴って販売が急増する医薬品の薬価を、年4回ある新薬の
  薬価収載の機会を使って見直す新たなルールの導入
 ◆ 新薬創出加算の対象品目の絞り込み
 ◆ 費用対効果評価の本格導入
 など、超高齢化社会に向けて急増する医療費抑制が喫緊の課題とされ、薬価改定に関しては製薬業界にとりネガティブな議論ばかりが並ぶ。新薬イノベーションをめぐって企業経営者からは苦言が相次いで発せられているとの報道もあるが、足元の製造工場だけでなく業界全体で、サプライヤーや物流業者、医薬品卸等も巻き込んだサプライチェーン全体でのCOGの低減に舵を切っていく時期に来ているのかもしれない。

※この記事は「村田兼一コンサルティング株式会社HP」の記事を転載したものです。

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