新・医薬品品質保証こぼれ話【第47話】

執筆者の連載をまとめた書籍を発刊「医薬品品質保証のこぼれ話
 

“不正隠ぺいの損失”と対応の考え方

昨年秋(2023年)に違法製造が確認され、今年2月9日に富山県より業務改善命令が下された原薬製造業者「アクティブファーマ」の違反に関し、詳しい状況が明らかになってきました。 主たる“違法製造”は不眠症治療薬「エスゾピクロン」の製造に際する原料の秤量ミスに関して発生したとのことであり、報道によれば、その概要は次のとおりです。

「エスゾピクロン」の製造の際に原料を規定量より多く量りとり、この秤量ミスに気づくことなく投入に至り、このミスを補うために“承認書に記載の方法とは異なる手順”を用いて製造を進行させ、原薬「エスゾピクロン」として製造を完了し、製造販売業者に販売した。詳しくは、“秤量ミスした原料の過量分に合わせて他の原料を増量し(混合比率を合わせ)、工程を進め製造を終え、最終的に、出荷試験により品質に問題のないことを確認して販売に供したとのことです。また、これに伴い虚偽の製造記録を作成した。

この種の、原料の“秤量・投入”ミスの場合はロット救済するのは難しく、通常は廃棄処分にされますが、今回は救済するためにこのような対応がなされた模様です。この対応は役員の方が判断・指示されたと報道されていますが、“製造”に失敗はつきものであり、継続的改善がこういった失敗やミスの積み重ねの上になされることを思うと残念に思います。“失敗から学ぶ”ことの意味と重要性が理解されていれば、今回のミスを貴重な経験と位置付け、同じ失敗を繰り返さないために、業務システムの改善や教育訓練へと前向きな対応がなされていたのではないでしょうか。しかし、“納期優先”の状況の中での“余裕のなさ”などにより今回の事態に至ったものと推察されます。

今回のケースに限らず、“失敗やミスの隠ぺい”の多くは“データ不正”につながることから、組織に禍根と翳りを残し、健全な組織風土の醸成に好ましくない影響をもたらし、結果として、組織の発展や職員の向上を阻害することになります。また、今の社会の状況から、“組織で発生した不正を隠し通すことは極めて困難”であることを考慮すると、特に経営陣や幹部職員の方には、目先の利益や損失に捉われない、先を見据えた大局的な視点からの判断が求められます。

つまり、特に管理側にある者は、“不正は必ず露見する”との認識に立ち、工程においてトラブルやミスが発生した場合は“適法・適正(合法的・科学的)”に判断・対応することを大原則とし、このことが結局は自社の継続的な発展に寄与するとの理解と自覚の上に、率先して、正しい対応を進めることが求められます。今回の事案で言えば、秤量ミスしたロットを廃棄処分にしていれば経済損失だけで済んでいたところ、原料費を無駄にしないことへの執着により判断を誤り、結果として、法令違反に至り行政処分を受けることになりました。(参照:第39話:縦組織の限界と“隠ぺい”の構造

さて、今回の不祥事も幹部が関係する“組織の問題”と考えられますが、その背景には“過密な生産計画”、“納期優先の日常の業務姿勢”などがあると推察されますが、そういった状況の下でも、問題が発生した場合は一旦立ち止まり、事態を冷静に判断するのが幹部職員の役割のはずです。原薬製造所の場合は関係する製造販売業者と連携して問題解決することも重要となりますが、そのためには、日頃から双方の間に良好な関係を築いておくことが大切になります。
 

 

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