製薬メーカーと臨床現場とのギャップ【第2回】

0.はじめに
 「先生、先日お話しした治験薬をお持ちしました。調査票は1枚●●万円でよろしかったですよね。良いデータをよろしくお願いします。」
 このようにしてMRさんが治験薬と菓子折り持ってやってくる。医師は直接お金を受け取り自分の財布へしまい、治験薬のデータを作る。MRも受け取ったデータが真実かどうか確認する術はありません。
 1997年以前の旧GCP1)時代、1990年のGCP以前にはこんなことがあったとかなかったとか。私は新GCP2)が施行されてからの治験しか知りませんので、あくまで噂話ですが、新GCPが施行されるまでは治験もデータの取り方や品質管理の方法など、だいぶ緩かったと聞いております。現在でこそ新GCPが施行され、治験データの品質は高レベルで維持されていると信じていますが、昨今のデータ改竄や医学論文の取り下げのニュースなどを見ていると、人はそう簡単には変わらないのではないかと感じてしまいます。
 今回は、そんな治験を依頼する側と受ける側の考え方の違いについてご紹介しようと思います。ちなみに医薬品の販売に関して言えば、製薬会社が売り手、医療機関が買い手ですが、治験の委受託に関して言えば、医療機関が売り手、製薬会社が買い手になります。これも踏まえてご覧ください。
 
1.医療機関の選定に関する視点
 製薬会社は、新しい医薬品の製造販売承認を得るために治験を計画し、医療機関に依頼して安全性や有効性の情報を得ます。人を対象とした試験は第I相からIII相まで段階を経て、得たい情報に応じて治験が計画されます。第I相では薬物動態や安全性、第II相では適切な用法用量や有効性・安全性、第III相では対照薬と比較した優越性や非劣勢、長期安全性、高齢者など特定の患者群の安全性などを確認します。
 製薬会社は計画した試験の目的に応じて実施可能な医療機関を選定します。治験実施計画を立てる際に、得たい情報を確実に得るために必要な症例数は、社内外にいる統計の専門家と相談して出されますが、その症例数を確保するために依頼する医療機関は医薬品開発部門が責任を持って選定します。
 選定の際のポイントは自分の経験から言うと、(1) 過去に自社の他の治験で実施した経験があり、依頼の手順がわかっていて、想定外の問題が起きにくい、(2)実施計画内に難しい検査や評価がある場合、実施できるかどうか、純粋に選定要件の問題、(3)当該疾患で著明な医師のいる医療機関で、次相試験以降に予定している実施医療機関を前相でも行いたい、販売後は採用してほしい等の理由が付随する、あるいは営業活動のためMRから是非にと依頼されることもある、(4)治験実施計画立案時に相談に乗っていただいていた医師(医学専門家等)の紹介(選定医療機関として有望ではないが無下には断れない場合も含む)、(5)SMOが提示してくる医療機関リストのうち症例数確保や実施スピード、CRCの質などの観点から有望と判断されること、(6)1症例あたりのコストが高すぎない、などが主な着眼点でした。
 分類してみると、(1)(2)はリスク回避や実施要件の観点から製薬会社側にとっては必要性の高い選択であると思いますが、(3)(4)は対ヒトの問題で製薬会社から積極的に依頼を行うものの、症例集積性が悪く担当者の負担を増やしただけに終わる可能性もあります。(5)(6)だけが医療機関側の状況(努力)次第で流動的なものとなります。
 生活習慣病など、対象疾患の潜在患者数が多い治験などは、症例数確保が容易であり医療機関を選定する際は選り好みができるのに対し、症例数の少ない希少疾病を対象とした治験の場合、症例数確保が第一優先となります。昨今は生活習慣病などを対象とした大型新薬の開発は少なくなっており、アンメット・メディカルニーズを求めて希少疾病を対象とした医薬品の開発が増えているため、症例数が少なく、実施医療機関の選定が難しくなってきていると考えられます。そのような状況で上記(3)(4)のようなヒトに縛られた業務効率の悪い選択をしていては、上市が遅れ、新薬を待つ患者さんのためにならないうえに営業利益も遅れた分損なうことになります。

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