ラボにおけるERESとCSV【第107回】

FDA 483におけるデータインテグリティ指摘(77)


7.483における指摘(国内)
前回より引き続き、国内企業に対するFDA 483に記載されたデータインテグリティ観察所見(Observation)の概要を紹介する。

■ IIII社 2022/4/15
施設:原薬工場

■Observation 4
ラボにおける手順が不適切である。特に:

a) 1月に完了したサンプルが4月の査察時に廃棄されていなかった。分析が完了した後のサンプルをQCラボ内に保存してよい期間がサンプル破棄のSOPに規定されていない。

★解説
データインテグリティの観点からは、データレビュアーによるレビューが完了し分析結果が確定するまでは調製したサンプルを保存しておく。初回の分析がOOS(Out Of Specification:規格外)となった場合、ラボエラーによるOOSか本当にOOSかを見極める必要がある。その見極めにはいろいろな原因を消し込んでゆくが、その際に調製したサンプルが必要になる。詳細は前回連載 で紹介した下記のFDAとMHRA(英国医薬品庁)のガイダンスを参照されたい。

FDA:
「Guidance for Industry, Investigating Out-of-Specification (OOS) Test Results for Pharmaceutical Production」(2006年10月)

MHRA:
2018年3月にはMHRA(英国医薬品庁)よりOOS/OOT調査のガイダンスが公開された。
Out of Specification & Out of Trend Investigations(2018年3月)
https://mhrainspectorate.blog.gov.uk/2018/03/02/out-of-specification-guidance/

このラボは「1月に完了したサンプルが4月の査察時に廃棄されていなかった」とのことであるので、「データレビュアーによるレビューが完了し分析結果が確定するまでは調製したサンプルを保存しておく」との要件は満たされている。しかし、調製したサンプルが必要期間をこえて保存されているとの指摘である。2,000件を超えるFDA 483を調査してきたが初めての指摘内容である。

査察官は以下のような観点から指摘したのではないかと推察する。

  • 保存の必要がない良品サンプルがラボに置かれていると
  • 本来のサンプルの代わりにこのサンプルで分析を行い
  • 都合のよい分析結果を報告するという誘惑にかられる

c) 日常のデータレビューをCDSにより行うQC職員が、監査証跡レビューに習熟していることを実証できなかった。

★解説
CDS:Chromatography Data System(クロマトグラフィーデータシステム)
クロマトグラフィーのデータレビューは、監査証跡をふくむ電子記録を対象として行う必要がある。そのためCDSには充実した監査証跡機能が具備されていることが多い。本査察においてデータレビュー担当者が監査証跡レビュー手順を問われたが、CDS実機において監査証跡レビュー操作を実演できなかったものと推察する。つまり、データレビュアーは監査証跡をレビューしていなかったことを疑われていると思われる。

CDSは一般的に多くの監査証跡を記録しているので、データレビューの目的に即した監査証跡を多くの監査証跡情報から選択して内容確認を行う必要がある。そのため、CDSには下記のような項目により監査証跡を検索できるようになっていることが多い。

  • 対象期間
  • 対象試験
  • 操作者名
  • 権限グループ(一般操作者、上級操作者、システム管理者など)
  • 操作の種類(データや設定の生成・変更・削除、アカウント操作 など)

このような検索条件をレビュー目的に応じてユーザーがあらかじめ検索条件セットとして複数登録できるシステムもある。

データレビューは以下の観点で行う必要がある。

  • 権限なくデータやパラメータが変更・削除されていないか
  • 使用したパラメータは正しいか
  • 不都合な事象を隠蔽していないか
  • 正当な理由なく繰り返し測定していないか
     (繰り返し測定の妥当性を記録により確認)
  • 試し打ち(テストインジェクション)は妥当か
  • 正当な理由なく手動解析/再解析をしていないか
  • 手動解析/再解析の開始条件は規定を満たしているか
  • 手動解析/再解析の内容は妥当か
  • シングルインジェクションは妥当か など

これらのデータレビューは監査証跡を活用して実施する必要がある。これらの手順を規定し教育訓練していれば指摘を受けなかったと思われる。

なお、本483においてQAによる監査証跡レビューは指摘されていなが、システム管理者が不適切な操作を行っていなかったことを監査証跡によりQAは確認する必要がある。データレビューは試験ごとに行う必要があるが、QAによる監査証跡レビューは自己点検の一環として、抜き取りで標的を決めて実施することでよい。QAによる監査証跡レビューのポイントは以下のとおりである。

  • システム管理者権限のもとになされた操作の正当性を確認
  • 正当な理由なく監査証跡をオン/オフしていないかを確認
  • 不都合な記録を削除していないかを確認
  • 良いとこ取りをしていないことを確認
  • 不都合な事象を隠蔽していないことを確認 など

また、QAは以下の確認を行う必要がある。

  • データレビューが手順どおり実施されているか
  • データインテグリティを保証できるデータレビューになっているか
  • データレビュアーは良いとこ取りがないことを監査証跡により確認しているか 
  • データレビュアーはパラメータの適格性を確認しているか など

QAがこのような自己点検をしていたなら、今回のような査察指摘は受けなかったと思われる。

 

 

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