ドマさんの徒然なるままに【第59話】過ぎたるは猶及ばざるが如し・Annex

第59話:過ぎたるは猶及ばざるが如し・Annex

本話、「過ぎたるは猶(なお)及ばざるが如し」のサブタイトルを冠したPart 1とPart 2の続編としているが、“追補と言うよりはオマケ”として書きました。その理由を正直に言います。本年9月1付けで発行された「GMP監査マニュアル*1を拝読させていただき、「これって行政査察(GMP適合性調査)の真似事を期待しているのか? それとも行政として手が回らないということで、製造販売業者に査察の肩代わりをさせようとしているのか?」*2といった違和感を覚えたからである。

言い訳がましいが、内容が悪いということではない。出来栄えとしたら「ここまでやっている(やれる)製造販売業者って、どれだけいるんだ?」と思えるほどハイレベルなのである。冒頭で、『各製造販売業者がこのまま使用することは意図していない。本マニュアルはあくまでも理想的な事例を記載したものであり、各社における GMP 監査に関する手順書について、本マニュアルに完全に準拠させることを求めるものではない。各社における GMP 監査に関する手順書は、最終的には各製造販売業者の責任の下、決定すべきものである。すでに、製造販売業者が制定している GMP 監査に関する手順書を見直し・改訂する際に必要に応じて本マニュアルを参照として活用されることを想定している。』とあるが、監査の実施/受けを数多く経験してきた者として、“ビジネスがベースにある民間企業間における監査”という意味においては、素直に受け入れられないという、まったくの個人的感想に基づくものである。

一方で、Part 1とPart 2の続編でもあることから、前Part 2に述べたラップアップ後の「(被監査先への)監査結果報告書 ⇒(被監査先からの)改善計画書 ⇒(被監査先への)今回監査の終了連絡 ⇒(監査実施側社内での)監査報告書」を紹介する。
《注》各文書名は「GMP監査マニュアル」に合わせているが、内容的には無関係である。
 

なお、Part 1およびPart 2と同様、本話においても、漠然と“GMP”と記している場合は、GMP省令を筆頭に、GQP・GCTP・GDPも含めた総称として記しており、GMP省令そのものを指すような場合は、具体的に表記しているので、その点をご了承ください。


【(被監査先への)監査結果報告書】
● 遅すぎる監査結果報告書
監査においては、ラップアップを無事終えれば、基本的にはそれで一旦は(少なくともその場での監査は)終了となる。被監査側としては、戦々恐々として「(監査実施側からの)監査結果報告書(最初は「案」として確認する場合もある)」を待つことになる。内容については、ラップアップ時に(口頭で)伝えられてはいるものの、“書き物(文書)”として指摘が伝えられるのは、ダメ押しかつ威圧的な感じがし、良い気分のものではない。被監査側としては、指摘内容は分かっていることから当日とは言わないまでも、翌日からは改善に向けた対応に入っている(はずである)。

通常、ラップアップ時、リードオーディター(「GMP監査マニュアル」で言う“チームリーダー”)から「監査結果報告書については、●●営業日までに送付します。」とコメントされている(はずである)。が、たまーに期日を明確に伝えてくれない場合(オーディター and/or 会社の問題?)がある。待てど暮らせど、とは言わないが、常識的には「一体どうなってるんだ!?」と思えるほど、遅い場合である。こういうヤキモキさせる状態は単に宜しくないというだけでなく、相手に失礼である。たとえ委受託の関係であったとしても上下関係があるわけじゃない。顧客だから偉いというわけじゃない。本来の監査の主旨、「製品品質リスクを少しでも低減させ、良品を安定して患者にお届けしたい」という、お互いの“プロ意識と状況”の確認であることを再認識してほしい。それを理解しているのであれば、少しでも早く「監査結果報告書」を送付し、一刻も早い改善をしてほしい、と思うんじゃないですかね*3
《注》あくまで筆者個人の対応にすぎないが、ラップアップ時に「良い点と悪い点(Critical / Major / Minor / Recommendation)」をPower Point資料に箇条書きではあるが取りまとめて説明し、帰宅途上の電車内等から被監査側のカウンターパーソンに送信していた。オーディターとしては手間がかかるが、口頭のみによる誤解回避と改善対応への迅速な取り組みには効率的だと思っている。
 

● 送付が遅いのに改善計画書の期限は異常に短い監査結果報告書
前項の続きとも言えるが、「(被監査先への)監査結果報告書」が遅いにも関わらず、指摘に対する「改善計画書(改善回答)」の送付を急がせるオーディター(or その会社)がいる。前項で、通常、ラップアップ時、リードオーディターが監査結果報告書の送付期限と同時に、「改善計画書については、両者合意した最終の監査結果報告書受領日から■■営業日以内に書面でご回答をお願いします。」と伝えているものと思うのだが、中には高飛車なオーディター(or その会社)がいるのも事実である。「相手には厳しく、自分には甘い」と言わざるを得ないタイプであるが、そこのところは良識・常識をもって対応してもらいたい。

指摘内容によっては、ある程度の時間的猶予を考慮し、「まずは、大まかなタイムスケジュールをお示しいただくことで結構です。」といったコメントをつけてあげてもいいんじゃないかと思う。民間企業の監査は行政査察とは別物であり、そこには企業間のビジネスとしての友好関係・信頼関係の構築・維持も含まれる。“嫌な相手”と思われれば、それだけ改善に熱が入らない、というのが本音であり、人間なんじゃないでしょうか。

そうは言っても、逆に言えば、指摘を受けた被監査側とすれば、郵送されてくる原本を待つ必要もないわけである。さらに言えば、そもそもラップアップ時には口頭で指摘内容は伝えられている(はずである)。だとしたら、ラップアップ後に早速改善計画を練り、対応に邁進するという姿勢が大事であろう。

● ラップアップ時に説明のなかった指摘が追加されている監査結果報告書
稀にではあるが、ラップアップ時にはコメントされていなかった指摘(推奨ではない)が監査結果報告書に追加されていることがある。一応、その背景や理由は記されているのであるが、どう見ても“言い訳”っぽく、悪く言えば、“ついで”か“思い出した”と思えるような書きっぷりなのである。

こんなことをするオーディターに申し上げます。失念したのは、あなたのミスです。状況的には、責任転嫁と言うよりも記録改ざんに相当する行為です。他の指摘の妥当性にも疑問を感じさせますし、それ以前に、あなたのオーディターとしての資質に疑問を感じます。

● 指摘理由が意味不明になってしまっている監査結果報告書
監査結果報告書に記されている指摘の背景や理由が曖昧なものがある。ラップアップ時に口頭で一度説明されているものであるが、その際の説明とは何となく違っていたりするのである。単に“書き物”としての文章作成力が乏しいとかいうレベルではない。明らかに論点がズレてしまっている。まして、指摘の“格上げ(より重い指摘)”にでもされていようものなら、もっての外である。
《注》指摘の格上げこそ無かったが、論点置き換えは経験がある。この手の論点置き換え、改善計画書の繰り返し(最初の改善計画書の回答に満足しないオーディターが確認・質問として繰り返すこと)or 同一オーディターによる定期監査の際に行われることが多いように思われる。個人的には、監査実施側の会社としてオーディターの資質確認と教育訓練を充実させてほしいと願う。
 

【(被監査先からの)改善計画書】
● 言い訳ばかりの改善計画書
これは多いと言わざるを得ないのであるが、指摘に対して“言い訳”を記している「改善計画書」である。言い訳が通じたら、少しは改善の度合いを緩めてもらえるとでも思っているであろうか。あくまでも品質に悪影響を及ぼすということでの指摘である。そんな忖度があるはずはないし、忖度してくれるオーディターが居るとしたら、どんなオーディターか疑問でしかない。そんな言い訳はどうでもいいから、キチンと改善を図りなさいよ。

そもそも、それだったら、ラップアップ時になんでコメントしなかったんだよ。それはそれで問題なこと、分かってる?

● 論点がズレてる改善計画書
ときに言い訳が度を越して、指摘の真意がズレ、挙句の果てには、その論点が完全にズレてしまっている改善計画書がある。あんた、悪いが何を考えてんの? そもそも、そんな改善計画じゃ、たぶん容認されないし、今回は許されたとしても、改善が目的に沿ってないから、次回の監査じゃ、もっと重い指摘にされるよ。そういうことを確認するのが、ラップアップの場だったんですけどね。

● 完了期日が曖昧な改善計画書
一番多いと思われるのが、このパターンである。見た目には真摯に改善を図るという意思表示が窺えるものの、個々の指摘の改善完了日(英語では、“Due Date”と言います)が曖昧な改善計画書である。期日が示してあっても、異常に長いと言わざるを得ない場合も多い。設備改造などにより、次年度の予算に組み入れるといった場合であれば、正直にその旨を回答すれば良いだけである。また必要に応じては、適時進捗状況を報告すれば済むはずである。

逆に、監査実施側の視点で言えば、自分が出した指摘に対して、改善にかかる大枠の時間も読めないオーディターであれば、その時点で失格だと思いますけど。

ちなみに、このパターン、自己点検に多いんですね。「改善中」とか「検討中」とか言って、ダラダラと引き延ばすんですよね。仲間内という意識なんですかね。「仲間内だからこそ厳しく!」が筆者の認識なんですけど、これが嫌われる元なんだろーなー。

【(被監査先への)今回監査の終了連絡】
● 終わりの見えない監査
(被監査先からの)改善計画が合意できたら、「今回の監査は終了とします。」という連絡をしてあげたい。被監査側からすれば、オーディターがまた何か言ってくるんじゃないかと気がかりなのである。指摘は指摘として真摯に受け止め、改善に力を注ぎたいのである。そんな中、「今回は終わったと思って良いのか?」という余計な気がかりは、改善に支障を来たすことに繋がりかねない。無駄な神経を使わず、改善というお互いの目的に注力したいものである。

そのためにも、オーディターとして「Closing Letter(監査終結礼状とでも言うのだろうか)」を送付することをお勧めする。一例は、以下に示したが、これに拘る必要はなく、自社で設定すれば良い。

拝啓 貴社ますますご隆盛のこととお喜び申し上げます。

ABCD年EE月FF日に実施させて頂きました監査時の指摘・推奨事項に対しまして、ABCD年XX月YY日付の書簡並びにメールによるご回答を頂きありがとうございました。

私どもの指摘・推奨事項に対しまして、即時のご対応、前向きなご検討とご計画を頂き心よりお礼申し上げます。今回の監査におけます指摘・推奨事項に対しましては、適切なご回答が得られたと判断し終結とさせて頂きます。 なお、将来再度ご訪問させて頂いた際に改善の成果を拝見させて頂ければ幸甚です。

品質システムを含むGMPの向上には際限がなく、品質保証に係わる事項については、より高いものが要求されている状況です。 今後とも維持・向上に努めて頂きますよう宜しくお願い申し上げます。

敬具

大事なことは、民間企業どおしの関係にあっては、監査の実施側・受ける側の両者、状況的にその立場の違いは生じても、本来の立場は同等であって上下はなく、その目的は一致していることを認識しあうことである。少なくとも、「NeverEnding Story」ならぬ、「NeverEnding Audit」にはならないようにしましょう。

【(監査実施側社内での)監査報告書】
《注》本項目における監査報告書は、「GMP監査マニュアル」と異なり、チームリーダーと称されるリードオーディターが作成したものを、自己裁量で上司や品質保証責任者等に提出するシステムとして記している。
 

● 個々の指摘の理由に疑問を感じさせる監査報告書
あくまで監査実施側の社内用の監査報告書である。監査先製造所のGMP評価は当然のことながら、グッドプラクティスの観点からは、記録保存とともに自社製品への品質影響評価が含まれていなければならない。基本的には、相手先に送付した監査結果報告書と同様であり、個々に出された指摘・推奨事項の理由と分類(レベル分け)は客観的に見ても妥当なものでなければならない。ただ稀にではあるが、相手先への理由と社内用の理由とのニュアンスが微妙に異なっていることがあったりする(さすがにレベル分けは同じであるが・・・)。

● 個々の指摘の分類が疑問な監査報告書
前項に連動するが、個々の指摘・推奨事項の理由が曖昧であれば、当然のことながら、その分類に疑問を感じる。より重い指摘 or 軽い指摘かは、状況と内容に依るが、妥当なラインと納得しうるものであるべきである。

もし、この手のチグハグを感じさせる事項が多発するようであれば、オーディター、特にチームリーダーの再教育も含めて、その資質と能力について再考したほうが良い。

● 個々の指摘分類と総合評価とがマッチしていない監査報告書
評価結果がどうかは別として、個々の指摘・推奨事項の内容と総合評価とがマッチしていない場合がある。被監査側への忖度や感情的因子は抜きにして、客観的に判断することが基本であり、それが可能であることを前提としてオーディターに任命されてるんじゃないですか? ましてチームリーダーであれば、ですが・・・。

さらに言えば、このような場合、チームリーダーからの監査報告書を受けて、その内容に疑問を感じないような上司(監査責任者 and/or 品質保証責任者等)であれば、上司として失格だし、組織として大問題と言ったら、失礼でしょうか。

● 事務処理としか思えない監査報告書
監査として一連の記録を含む文書は揃っている。が、その後のフォローがまったく無いといったことがしばしば散見される。勿論、当該監査の(指摘を含む)内容にも依るが、次回の定期監査を待たずに被監査側に確認が必要な場合がある(はずである)。それにも関わらず、チームリーダーとしてほおっておくということは、監査の目的を逸脱した、オーディターとして失格となる行為と言わざるを得ない。次回監査までの期間は、直近のチームリーダーの責任である。責任を負う(負わされる)立場であるから、事務処理できないのである。ハッキリ言います。責任を負うのが嫌ならば、オーディターになるべきじゃない。

この事務処理パターン、自己点検には極めて多い。監査であれ、自己点検であれ、これが度重なると、「実績と称した記録残し」と思われても仕方がないんじゃないでしょうか。



「過ぎたるは猶(なお)及ばざるが如し」、個々のアクションや指摘のみならず、監査全体の流れも含めて、適度の“度合い”の中で行うべきであろう。今夏発行された「GMP監査マニュアル」に示されたような立派な監査システムを構築し運用できる会社さんにあっては、それを行えば良い。ただ、それに無理があるようであれば、(行政から私自身が指導を受けるかもしれないが)身の丈に合ったレベルでの対応でいいんじゃないかと思う。民間企業の場合、「監査(audit)とは、品質を通じての友好関係を築く行為」であり、「監査員(auditor)とは、品質を通じての友好関係を築く親善大使である」という意識と行動なんじゃないか思っている。

行政査察と民間企業による監査、その目的とするゴールは同じで「品質確保と安定供給」と言える。また、行為としてやることは似ている。が、その根幹にある目的は異なる。行政は、あくまで「GMPの適合性の調査であり、コンプライアンスがベース」にある。一方で、民間企業では、「(承認書を踏まえての)製品品質の保証」が優先される。そのため、民間企業の監査においては、GMP省令の第何条第何項ということ以前に、うちの製品はどのように造られているのかということが問題になる。大事なことは、両者がそれぞれの立場でそれぞれの役目を果たし、それぞれの至らない部分(それぞれに踏み込めない部分もある)を補完しあって「患者救済」に務めることだと思う。そして、それこそが「医薬品の存在意義を貫くための品質の確認」だと思う。

最後にちょっとマジメになってしまいましたかね。


では、また。See you next time on the WEB.



【徒然後記】
着信音
最近、TVでスマホの着信音が鳴るCMやドラマが多いように思う。大方のアプリについては通知時の音声をオフに設定しているものの、SMやLINEなどの家族関係中心に使用しているアプリや仕事にも使用しているG-mail等はデフォルトの着信音そのまま使っていることが多い私にとっては、「あれっ、今鳴ったな?」と思わず自身のスマホに手が出る。ハッキリ言う。迷惑なんだよ! 私の場合、直ぐに取れる場所ではなく、常時充電しているため、ちょっとだけ動かないと取れない場所に置いている。そのため席を立たなくてはならないんですわ。TVの着信音に騙されるって、絶対私だけじゃないと思う。読者の中にも同じ罠にはまっている方が居られるんじゃないですか? 正直、ちょっとムカつきません?
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*1:令和5年9月1付け 厚生労働省医薬局監視指導・麻薬対策課 事務連絡「GMP、QMS及びGCTPのガイドラインの国際整合化に関する研究成果の配布について

*2:失礼な言い方にはなるが、「GMPマニュアル」の「別添2(1).監査計画・結果表」内にある「3.【当局査察状況、他社受託状況と監査状況】」について。当局査察状況はともかくとしても、他社受託状況と監査状況の情報を教えてもらえるとは思えない。もし、この手の情報を伝えてくれる受託製造業者等があれば、それこそビジネス的コンフィデンシャリティの意識に欠けた信頼のおけない(一言で言えば、口の軽い)業者と言わざるを得ない。そもそも、その情報を得たからと言って、それが自社製品の品質保証にどれだけ意味があるのか疑問でしかない。

*3:あくまで個人的意見である。「GMP監査マニュアル」の「11.2 監査結果報告書」の項に、「注 1:監査結果報告書の発行者は、品質保証責任者とすることが望ましい。」とあるが、本当にそうか? 監査員、特に「GMP監査マニュアル」で言うところの“チームリーダー”は、当該監査の中心人物であり、指摘の是非・妥当性も含め、当該監査の全責任を有すると考える。被監査側のコンタクトパーソンとも監査の場で面識を有しており、以降の改善や相談等の対応もし易いはずである。そういう一切の対応が適切にできるということで任命されたと考える。そのような中で、「監査結果報告書」とした正式文書の発行者として、面識のない品質保証責任者がしゃしゃり出てくるというやり方は、形式的であり、さらには相手に威圧感を与え、民間企業の関係としては逆効果であるように思う。もし、チームリーダーに問題がある(あった)ようであれば、それは監査責任者、ひいては品質保証責任者の“任命責任”なんじゃないかと思うのである。

 

 

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