エッセイ:エイジング話【第55回】

スキルに走ると!

 スキルに走ると感動させられない!と訊きます。技巧は極められると見る人を圧倒させる迫力があります。非の打ち所がなく、これでもかと言わんばかり、細かく揃った完璧な技巧から生まれた作品は、鑑賞を越え観る人に対しある種の迫力と緊張感を与えます。
 スキルを鍛錬することはモノつくりで必須な姿勢です。ただ国王への献上品なら不可欠でも程々して欲しいと思ってしまいます。
 原子力発電に係るスキルに対して完璧を求めて欲しいものです。ここでは、たとえ想定外であっても当初目論んだ狙いから逸脱は許されません。原子炉へ冷却水を送る系統では、考え得るリスク分散を鑑み、いくつも系統を用意すべきこと、人は必ずや判断ミスを起こすのが前提なこと悲惨な犠牲があって初めて学びました。
 ここはワクチンへの異物混入に対しても、完璧な防止スキルを求めたいところです。なぜならワクチンバイヤル内の大方はWFIだからです。
WFI : Water for injection
 さて、完璧な技巧が極められた美術工藝品に対し超絶技巧(ちょうぜつぎこう)と称賛されます。5年前に台北にある故宮博物院(こきゅうはくぶついん)を訪れ、国王へ献上された品々を展示室のガラス越しに閲覧しました。
 とりわけ人だかりが多い品がありました。象牙を少しづつ彫り込んで作られた品は親子二世代が切磋琢磨し半世紀かかって完成したと、同行してもらった学芸員の方から説明を受けました。超絶技巧へ圧倒されたものの何故か感動へ至りませんでした。
 日本でも、江戸時代から明治初期につくられた美術工藝品へ感嘆を込めて超絶技巧と冠されます。幸いにも、旧家に大事に伝えられた工藝品や海外のオークションで落札され、里帰りした工藝品を拝見する機会がありましたが、これらへも緊張感を抱き圧倒されてしまいました。


 明治初期には、工藝品を輸出し外貨を得ることを時の政府が奨励しました。そのきっかけとなったのが、1867年(慶応3年)にパリで開催された第2回万国博覧会でした。ここへは日本からは明治政府・薩摩藩・佐賀藩が出展したと伝えられています。
 薩摩藩からは陶磁器壺が佐賀藩からは陶磁器皿などが出品されました。たった13年前まで鎖国が続いたアジアの小国から届いた異国情緒にあふれる超絶技巧に対し、パリジャンから絶賛されました。
 フランスではこの時から現在に至り、日本の美術品へ感心が高いと訊きます。ここでも取り上げた細川護熙(ほそかわもりひろ)氏がパリMITSUKOSHI ETOILEで展示されたやぶれ壺はパリジャンへ大きな感動を与えたと訊きます。芸術は見る人へ感動を与えられるかどうかが大事なポイントだと私は思います。

 

 

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