新・医薬品品質保証こぼれ話【第36話】

執筆者の連載をまとめた書籍を発刊「医薬品品質保証のこぼれ話
 

出荷停止と“出荷自粛”

新型コロナウィルスによる感染症の法的位置づけが、今年(2023年)5月に2類相当から5類に移行し、これに伴い感染者数の把握も全数から定点把握に移行しました。これを受け、この感染症が未だ終息に至らない状況の中、マスクの着用をはじめとする様々な日常生活の制限が一挙に解かれ、外に出て自由に飲食や旅行を楽しむことができる状況となっています。振り返れば、2020年春以降の約3年間は、不要不急の外出や居酒屋をはじめとする飲食店での一定人数以上での飲食など、いろいろな面で“自粛”が求められ、日常生活において様々な制限を余儀なくされました。

今回はこの“自粛”と法的強制力を伴う“禁止”や“停止”の違い、また、その影響や責任の所在などについて考えてみたいと思います。

先日、大阪市に本社を置く小城製薬が、亀岡工場における“薬機法違反・GMP逸脱”を京都府薬務課から指摘され、“全品目の出荷を自粛”するという報道がありました。コロナ禍における自粛は“自粛要請”という言葉からも分かるように、“政府の求めに応じた自粛”であり強制力はないものの、自粛しないと罪の意識を感じるといった、言わば“強制感”といったものがありました。そのことは、当時の“自粛ムード”や“マスク警察”いった言葉にも象徴されていました。

では、小城製薬の“出荷自粛”はどうでしょう?京都府薬務課による出荷の“自粛要請”なのか、それとも、GMP逸脱等の指摘を受けて、小城製薬が“自主的に出荷自粛”の判断を行ったのか?微妙な行政の圧力はなかったのか、行政としてはそのつもりはないが企業がそれを感じて、出荷自粛が妥当と判断したのか?そのあたりの真相は、その場に居合わせた者にしか分かりません。とまれ、薬機法違反やGMP逸脱の指摘を受ければ、出荷を継続できないと判断するのが妥当であり、“出荷を止める”という判断は当然の流れかと思われます。このような行政の指摘の下、様々なやりとり、経緯を経て、最終的に“出荷自粛”という形に落ち着いたものと推測されます。

報道から得られる情報を基にした上記のような考え方の整理から、今回の件は行政による“業務停止処分に基づく出荷停止”でないことは間違いないようです。“出荷自粛”と行政処分としての“出荷停止”、この二つの判断は法的には明らかな違いがあるものの、本件に係る実質的な業務行為としては、両者とも全品目の“出荷中止”という事実であり、いずれの場合も、医薬品の安定生産や医療への影響は同等に生じます。薬機法違反やGMP省令違反に対する措置として考慮すべきは、法的に妥当な判断を行うことと、社会・医療に対する影響への配慮であり、この点において今回の措置・対応は十分だったのでしょうか。

亀岡工場で製造される生薬エキスの出荷先は十数社に及ぶとのことであり、これを原料に医薬品として製造販売される漢方・生薬製剤は少なくないと推察され、全品目の“出荷自粛”による安定供給への影響が懸念されます。そこで、改めて本件の対応の流れを確認し、この辺りについて考察を進めたいと思います。対応の流れは概ね次のようになります。「“複数品目の製造や試験検査が承認書やGMP基準に沿って実施されていない”、という京都府の指摘を受けて、小城製薬が“全品目の出荷自粛”を決め、再開の目途が立っていない。また、出荷済みの原料については、これを購入使用し、医薬品とし製造販売する企業の所管都道府県に、取り扱いについての判断を委ねる。」
 

 

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