【2025年5月】医薬品品質保証こぼれ話 ~旅のエピソードに寄せて~

執筆者の連載をまとめた書籍を発刊「医薬品品質保証のこぼれ話」
第14話:医療と薬価
ドナルド・トランプ氏が長い選挙戦という旅路を勝ち抜き、第47代アメリカ大統領に就任して約3か月経ちましたが(2025年4月下旬)、ここにきて、予告どおり、世界の主要国に対し法外な“関税”をかけるという“施策”を実行に移しています。その上、課税率の引き上げや実施時期の延期などを連日のように発表し、この動向に各国首脳が翻弄されているというのが現状です。この“暴挙”に対し、他国にこれといった動きが見られない中、日本はいち早く経済再生大臣をワシントンに派遣し、トランプ大統領および側近との交渉に漕ぎつけました。この動きに対し、スピード感ある対応と評価する者がいる一方、一部野党のように“朝貢外交”と揶揄する者など賛否が渦巻いていますが、この対応に吉凶の評価が下されるのは少し先になるでしょう。
ところで、関税の税率に限らず国が決める様々な課税率や価額は、様々な要因を基に適切に定められていると信じたいところですが、消費税率の設定や引き上げ、また、医薬品業界に近いところでは薬価など、その設定や改定の経緯をみると必ずしも納得のいくものばかりではなく、むしろ、腑に落ちない場合の方が多いと感じている方のほうが多いのではないでしょうか。
一般に、モノの価額は生産者により決められますが、“薬価”(医療用医薬品の価格)は“国民皆保険制度”という日本の医療制度の根幹をなす制度を安定的、継続的に運用可能とするために、医療制度の一環として、薬価制度のルールの下に国により定められていると理解されます。この制度に基づく毎年の薬価の切り下げは、これまで医療費確保に大きく寄与してきたと推察されますが、加えて、近年はさらなる医療費確保策として後発医薬品の使用が促進され、現在、当初目的の使用率80%もほぼ達成された状況となっています。
しかしながら、この先の医療費の確保維持が難しい現状から、次なる“手法”として高額療養費制度の支給対象の上限額の引き上げが検討されるに至り、本来、国民の健康を護るための医療制度の運用の根幹に関わる、言わば、本末転倒の政府の発想・起案が見られる残念な状況にあります。ちなにみ、高額療養費制度については、成年・壮年期の癌患者など支給が必要と考えられるケースと、例えば、認知症で本人の意思が確認できない寝たきりの高齢者の、単に延命を意図した療養などのケースを識別して運用することが、限られた医療費の有効で適切な使用と言えるのではないでしょうか。
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