医薬品開発における非臨床試験から一言【第65回】

高感度測定の実際

試料の分析に苦労されている研究者は非常に多いと思います。臨床/非臨床での生体試料、あるいは製品を製造する過程の分析など、検体の採取から保存、分析試料の調整、分析法の確立、データの解析、報告、保存まで多岐に渡り、バランス良く効率的な実施が求められます。分析法の確立には感度の課題があり、方法論の進化により高感度が追及されてきました。

高感度測定とは必要感度を十分に補える分析法とも言えます。限りなく高感度ではなく、分析目的の達成を目指します。薬理試験では血中有効濃度を十分に検証できる分析法とします。安全性試験(GLP試験)は、毒性評価に必要な血中濃度の分析(トキシコキネティクス、TK)を行います。薬物動態試験は血中濃度に加えて組織内濃度も示します。

薬理試験では、有効濃度の下限を十分にカバーする分析法が求められます。例えば血中濃度が1 µg/mL 以上で有効なら、1/100濃度の10 ng/mL 以上で定量分析が可能なら十分かもしれません。薬理反応は競合的な阻害作用か活性化作用のため、有効濃度よりも極端に低濃度での作用は想定されません。薬物動態では標的臓器中の濃度も課題となるため、これも有効性の評価対象になります。また、新薬はできるだけ特異的で低濃度の有効性があれば、濃度依存的で非特異的な副反応(副作用)が低減され、高感度分析の追及に加えて作用が特異的な候補化合物も有効です。

分析法の進化を見ると、HPLC(液体クロマトグラフィー)を用いた分析では、紫外可視吸光分析から蛍光分析に進化し、さらに高感度分析のためLC-MSやLC-MS/MSの利用があります。HPLCにMS(質量分析計)を組み合わせることで、高感度の分析機器になりました。候補化合物を実験動物に投与して血液試料を分析する場合、LC-MS分析では、HPLCの分析カラムで化合物関連成分(未変化体、代謝物)を生体成分と分離します。そして、MSの質量分析計に導入後イオン化して分析します。イオン質量対電荷比(m/z)の測定から化合物の同定と定量を行います。

LC-MS/MSでは、LC-MSを通過する時に目的のイオンを選択し、分解後、生成したフラグメントイオンを次のMSで解析します。このように2台のMSを直列に接続して高感度分析を行います。pg/mLレベルの血中濃度も測定が可能になってきました。

LC-MSやLC-MS/MSは、医薬品開発での臨床試験や非臨床試験(薬物動態、毒性、薬理)での未変化体や代謝物の分析、代謝経路の解析などに利用されています。また医薬品製造(合成)過程での不純物分析や化合物の安定性の確認など、高感度分析に有効です。さらに、バイオマーカーの研究や臨床検査にも広く使われています。

次に放射性標識体を用いた分析を取り上げます。薬物動態試験では、非標識体に14C-標識体を混合して使用します(トレーサー実験)。実験動物を用いたトレーサー実験では、血液/臓器試料の分析により放射能濃度(14C-標識体濃度)が得られます。この濃度を非標識体濃度に換算するとµg Eq/mL又はµg Eq/g tissueで示されます。

EqはEquivalent(等量)になり総放射能濃度と呼ばれ、親化合物(未変化体)に加えて全ての代謝物の濃度を加えた量となります。臓器/組織の場合はµg Eq/g tissueの単位になり、臓器重量に換算して投与量で割ると% of doseの単位で表すことができ、組織分布量を示すことができます。トレーサー実験では、目的の測定感度を十分に得る14C-標識体を混合するため、必ずしも「高感度」ではなく「必要感度」を持たした実験と言えます。

 

 

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