新・医薬品品質保証こぼれ話【第33話】
執筆者の連載をまとめた書籍を発刊「医薬品品質保証のこぼれ話」
目標管理と品質目標
「目標管理」は1950年代にピーター・ドラッカーが提唱したとされるマネジメント手法であり、“Management by Objective(MBO)”の邦訳「目標による管理」が本来の意味を現す呼称とされています。半期あるいは通期など期間限定で業務目標を設定し、それに向けて努力して得た成果、つまり、目標に対する達成度を業績評価の指標とし、人事考課制度と連動させて運用するのが一般的で、現在では多くの企業で採用されていることは周知のとおりです。
目標管理を進めるにあたっては、通常、過去の実績や自ら(個人、チーム)の能力などを基礎に、妥当と判断する目標を自主的に設定しますが、中には、トップダウンで通常の対応では達成できそうにない高い目標が設定され、部門や個人に割り振られるといった場合もあります。売上高を指標とする場合などで時おり見られるケースですが、これも広い意味において“目標管理”と言えるでしょう。ただ、こういったケースには本来無理があり、様々な面において職員に過度な負担を強いることから、随所に歪が生じ、様々なトラブルを招く原因になることも少なくありません。
7月下旬(2023年)よりマスコミを賑わしている㈱ビッグモーター(中古車の販売修理等)の不祥事の根本には、こういった行き過ぎた“目標管理”があったのではないでしょうか。“目標管理”を効果的に推進するポイントは、“実現可能な範囲に少し高めの目標を設定”することと、“自ら設定することにより主体的な行動”を促す点にあります。これにより、期毎の目標達成の可能性が高くなり、売上げなどを期ごとに向上させることの好循環が生まれ、中長期的には企業としての継続的な発展につながることが期待できます。ドラッカーが思い描いた目標管理はこのような流れであり、不正を行わないと達成できないような高い目標を設定することではないのは当然です。
“目標管理”の手法は医薬品企業においても広く適用されていると推察されますが、製薬工場における医薬品の品質確保に際し、医薬品品質システム(PQS)の推進において設定が求められる「品質目標」も目標管理の考え方に沿ったものと理解されます。“品質目標”は本来、ISO9001(ISO:International Organization for Standardization)の認証取得に際する推進プロセスの要件の一つですが、GMPにおいても、2018年8月施行の改正GMP省令において要件化されています。
改正GMP省令においては、「第3条の3(医薬品品質システム)」の第2号に、製造管理者または品質保証部門が品質方針に基づいて、“品質目標”を文書により定める旨が規定されています。この規定の下、実際の運用としては、詳細を把握している各部門において作成される品質目標を品質保証部門(又は製造管理者)が確認し、その内容に責任を持つという形で進めるのが現実的でしょう。
“品質目標”は品質方針を受けて部門ごとに設定し、それをブレークダウンして、各部門のチームやメンバーに割り当て達成に向けて推進されますが、ここで重要となるのが資源配分です。つまり、定められた品質目標を達成するためには、それに必要となる人材や設備機器などを適正に整えることが大切であり、改正GMP省令(第3条の3、第4号)においてもその旨が示されています。
このことの重要性は改めて説明するまでもありませんが、この数年に連続して発生した製薬工場における違法製造に際しても指摘されているように、人材や設備の不足が違法行為に至る要因の一つとなる可能性は否定できません。経営陣や管理者には、“資源配分”の意義・重要性を改正GMP省令の関連条項に照らして理解し、必要な対応を積極的に進めることが求められ、そのためには、日頃から現場に寄り添い、現場職員の声に耳を傾けることが何より大切となります。
なお、“品質目標の設定”にあたっては、達成度の評価をより的確に行うために数値で目標設定することが望まれます。クレーム件数や不良品率など、本来、数値(定量的)で表現する事項は当然、数値で設定されますが、それ以外の事項も可能な限り数値化を試み、数値目標とすることが期待されます。
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