ラボにおけるERESとCSV【第103回】

FDA 483におけるデータインテグリティ指摘(73)


7.483における指摘(国内)
前回より引き続き、国内企業に対するFDA 483に記載されたデータインテグリティ観察所見(Observation)の概要を紹介する。

■ EEEE社 2021/7/28  483
施設:原薬工場

■Observation 1
DCSにデータ欠落があったが、CAPAを適時実施しておらずデータ欠落の再発を防止できていなかった(DCS:Distributed Control System 分散型制御システム)。特に

① トレンドデータがDCSに表示されなくなっていることをオペレータが2019/5/13に報告した。また3台のPCにおいて5/1~5/15の間のプロセスデータが記録されていないことも発見された。逸脱報告によるとネットワークエラーが原因であったとのことである。この調査においてDCSベンダーはソフトウェアをアップデートするよう推奨していた。さもないと処理速度が低下しエラーが再発する可能性が高くなるとのことであった。

② 2021/6/14に同様のプロセスデータ欠損が発見された。異常調査報告によると、チームリーダーはDCSの監査証跡レビューにおいてこのデータ欠損を発見したとのことであった。データ欠損があったのは6/8~6/12の間であった。しかるに、CAPAが実施されておらず再発を防止できていない。

★指摘①の解説
2019/5に発生したデータ欠落対策としてDCSベンダーはソフトウェアのアップデートを推奨した。2021/6にデータ欠落が再発していることより、ベンダー推奨にもかかわらずソフトウェアのアップデートを実施しなかったものと思われる。2019/5時点においては一過性のトラブルだとみなし「様子見」という判断だったのかもしれない。ただし、「様子見」とする場合、何をどのようにモニタリングしその結果を誰が判定するかを決めておく必要がある。

★指摘②の解説
2021/6/14に同様のプロセスデータ欠損が再発したとのことである。初めて再発したのか、あるいは再発がたまたま発見されたのか483からは読み取れない。様子見を適切に実施していたなら「初めての再発」ということになり、この時点でPA(Preventive Action:再発防止策)としてソフトウェアのアップグレードを実施すればよい。再発がたまたま発見されたのであれば、2019/5~2021/6間の再発を洗い出しそれぞれの再発に対しCA(Corrective Action:是正措置)を行い、PAとしてソフトウェアのアップグレードを行う必要がある。

機器やシステムのトラブルやエラーは当局査察において確認を受けることが多い。査察官はトラブルやエラーを一覧表から無作為に数点ピックアップし、それらの処置記録を確認する。処置記録を確認するとその施設におけるGMP管理の実態が判るからである。トラブルやエラーの対応の留意点を以下に紹介する。

FDAのcGMP§211.22「品質部門の責任」の(a)項に以下の規定がある。
品質部門は以下を保証すべく製造記録をレビューする権限を有すること
 エラーが発生していなかったこと
 エラーが発生した場合はそれらが完全に調査されたこと
この規定への対応は以下の様にするとよい。
① エラー発生の有無を製造記録や試験記録に記載する
② 発生したエラーの処置内容(CAPA)を製造記録や試験記録あるいは逸脱処理報告に記載する
③ QAは製造記録や試験記録あるいは逸脱処理報告の記載により、エラー発生の有無やエラー処置内容を確認する(製造記録、試験記録、逸脱処理報告をとおしてQAへ報告)
 

■Observation 2
DCSによりプロセスパラメータがモニターされアラームが発報されている。2年間に発報されたアラーム総数は1,154,719であった。製造部門のマネージャーによると、発生したアラームを包括的に定期評価、つまり累積評価を実施していないとのことであった。

★解説
アラームには以下のように様々なレベルがある。
① オペレータが都度確認すればよいもの(記録不要)
② オペレータが都度確認し製造記録等に記録すべきもの
③ 逸脱には相当しないが是正処理を行い製造記録等に記載すべきもの
④ 逸脱処理を行うべきもの
 

オペレータは発報されたアラームに対し適切な処置を都度行う。
上記アラームの基準には以下のようなものがある。

  • 警報基準値(アラートリミット)
    • 要注意の警告を与えるもの
    • その値を超えても是正処理は必ずしも必要としない
    • 例:確認応答(Ack: Acknowledge)すればよいアラーム
  • 処置基準値(アクションリミット)
    • プロセスが正常な運転範囲から外れたことを示すもの
    • 正常な運転範囲内へ復帰させるための是正処置が必要
    • 処置基準値を超えても,必ずしも製品の品質が損なわれるものではない
    • 例:制御パラメータを変更したり自動を手動に切り替えたりするような処置が必要なアラーム
  • 逸脱基準値
    • この値を超えると製品品質が損なわれる基準値
    • 逸脱処理が必要
    • 例:プロセス限界値を超えてしまう場合のアラーム

これらアラーム基準値の関係を下図に示す。

図103-1 アラーム基準値の関係
2年間に発報されたアラーム総数は1,154,719であり、それらを包括的に定期評価、つまり累積評価していないとの指摘である。アラーム総数が明記されていることより、このDCSはアラーム履歴を電子的に維持していると考えられる。以下の様にしていれば指摘は受けなかったと思われる。
 
1)  各アラームに対する処置を規定する。
例えば、上記①~④
2)  製造記録に記載されたアラーム処置記録とDCS上のアラーム履歴とをシフト毎に製造部門内でつきあわせ確認し、製造記録を照査する。
3)  QAが製造記録を承認
4)  製造記録に記載された上記②③④のアラーム処置の総括を年次品質レビューにて報告

 

 

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