新・医薬品品質保証こぼれ話【第27話】

執筆者の連載をまとめた書籍を発刊「医薬品品質保証のこぼれ話

“初動の遅れ”と“インセンティブの限界”

4月25日(2023年)、スーダンの在留邦人58名が、軍と準軍事組織の戦闘が激化するスーダンから近隣国のジブチに無事、退避しました。退避者は、72時間の停戦合意中も複数の地区で銃撃戦が続く中、陸路1,000km前後に及ぶ道程を“九死に一生を得る”思いで、中継地のポートスーダンに移動し、自衛隊のC-2輸送機に乗せられジブチへ向かい、退避を果たしました。

この救出劇は、外務大臣と防衛大臣の連携はもとより、陸上自衛隊をはじめとする多くの関係者の協力の下、情報管理を含め周到に準備され、着実に実行されたものと理解します。しかし一部には、今回の日本政府の対応はアメリカなど欧米各国に比べて遅かったのではないかと、緊急時における“初動の遅れ”を指摘する向きもあります。
    
上記の事案に“初動の遅れ”があったかどうかは別として、日本の場合、リスクを伴う重大事案への対応が遅いと感じられることが間間あります。その理由の一つに、いかなる場合も“規定の法的手続きを踏むことを重視する”ということが挙げられます。この3年間の新型コロナウィルスの蔓延防止対策においてもこの傾向が感じられました。休業を要請する飲食店経営者などに対する経済支援の進め方なども、その一例かと思われます。

このときも、日本が“法治国家”であることを理由に、対策の実施に先立ち、必要となる法律を起案し、時間をかけて国会で審議して法案を成立させ施行するという、平時と変わらない対応がとられました。本来、一刻も早く休業への十分な経済的補償を決め、直ちに実行し、感染拡大の可能性が示唆される場の活動を中止させるべきところを、規定の流れを慎重に踏襲して進められました。このこと自体は間違った対応とは言えませんが、自然の摂理に従い感染拡大を目論むウィルスは、法案成立を待ちません。

“法令遵守が初動の遅れ”となり問題解決が遅れる、或いは問題を深刻化させる、という状況が見られるのは、医薬品を取り巻く世界においても例外ではありません。長いトンネルに入った感のある“医薬品不足”の問題にも、そういった側面が見られます。医療費抑制のための後発医薬品(以下、「後発品」)の使用促進という施策により、後発品製造所においては生産量が増える一方、毎年の薬価引き下げにより健全な収益構造が確保できず、追加が必要な人員の雇用や設備機器の増設が儘ならない状況下に、GMP・コンプライアンス対応に不備が生じる。その結果、市場からの医薬品回収と業務停止を招き、生産済みの医薬品も出荷停止(=廃棄)となり、市場の医薬品が減少し、医薬品不足が一向に改善しない、という負のループを描いている。現在、概ねこのような状況にあると考えられます。

 

 

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