ドマさんの徒然なるままに【第53話】データは続くよどこまでも・前編


第53話:データは続くよどこまでも・前編

本話、筆者の師匠にあたる古田土真一先生が講師を務める、本年6月22日開催の「シン・オールアバウト治験薬のGMP~医薬品開発における品質保証について~」に当たって、先生ご自身が執筆した原稿をそのまま第53話と第54話の前後編の2回として紹介します。

先生によると、本話の内容は、セミナーでお伝えしたいことの意図を文章にしたとのことです。また、先生ご自身がGMP Platform記事としてお書きになった「WHO / TRS 1044 Annex 7: WHO good manufacturing practices for investigational productsの注釈付き対訳(全5回)」および「WHO / TRS 1044 Annex 6: WHO good practices for research and development facilities of pharmaceutical productsの注釈付き対訳(全5回)」の中で触れていなかった点の補足(対訳ということで述べることのできなかった意見)も兼ねているとのことです。このようなことを意識してお読み頂ければ有り難いと思います。

弟子の私の立場として言えば、この「ドマさんの徒然なるままに」の第23話「医薬品開発の点と線・Part 1」、第24話「医薬品開発の点と線・Part 2」ならびに第25話「医薬品開発の点と線・Part 3」の延長線上の内容となります。単なる治験薬のGMPの解説話ではなく、医薬品開発における品質とは何かを考えさせられる話です。

----------------------------以下、古田土先生の執筆です----------------------------------

1.    不要なデータなどありません。
ときに「ダメなデータ」なんて言葉を耳にすることがありますが、データそのものに不要なんてことはありません。勿論、期待通りのポジティブな結果もあれば、予想外のネガティブな結果など、色々あります。それらを自身の勝手な都合でチョイスしたりすれば、信頼性に欠けるだけでなく、場合によっては、ねつ造とみなされても仕方なしと言えます*1。一歩下がって、もしダメがあるとすれば、「いつ・どこで・だれが・なにを・なぜ・どうやって」の5W1Hに欠陥がある場合だと思います。

データ自身に罪はなく、事実を示しているだけなのに、“ダメ出し”するような言い方って失礼なのではないでしょうか。大事なことは、ポジティブ/ネガティブを問わず、得られたデータに秘められた意味を読み解き、そのデータを基に更なる進展のために活かすこと(開発そのもの)です。そのためにも、すべてのデータをありのままに蓄積することが求められているはずです。

最近ではData Integrityという素晴らしい言葉と概念がありますが、科学的データの意味と信頼性を知っている者であれば、「何をいまさら」と感じるのではないでしょうか。医薬品開発には膨大なデータが必要であり、そのために研究をし、実験しているはずです。その大部分は、必ずしも申請に直接関係するデータではないでしょう。でも、そういった隠れたバックグラウンドデータのお蔭で、開発が順調に進められ、承認に至っているのが事実だと思います。大事なデータをネグってしまうようなことがないことを期待します。


2.    原薬の変更管理の起点は前臨床試験用原薬であることを忘れてはいけません。
動物による前臨床試験は、ヒトへの使用の安全性を予測するための試験であり、ヒト治験に入る是非を決定するために行うものです。そのため、キチンとした製剤化を求めている訳ではなく、例えば内服固形製剤を想定した場合、投与可能であれば、新有効成分(原薬)を微粉化してカプセル充填しただけでも投与可能であれば良いことになります。ただ、ここで大事なことは、本項の冒頭で述べた前臨床試験の目的から、その原薬の不純物プロフィールです。前臨床試験に使用した原薬とヒト治験Phase 1で使用する際の原薬プロフィールが異なれば大問題です。まして、HPLCで無視できないほどの面積比を示す新たな異種ピークが観測されたなんてことであれば、使い物にならない(それ以上開発を進められない)可能性もあります*2。通常は、同じルート・条件で製造します。もしスケールや設備であっても違えば、前臨床試験用サンプル製造時を起点とした変更管理が必要となります。逆に言えば、この変更管理自体が以降の開発のベースになります。

一方で、製剤については、製剤研究の段階であるため、前臨床試験段階では物性評価を踏まえた製剤研究の一環としてプレフォーミュレーションを行い、Phase 1のヒトでのADMEの結果も踏まえて、科学的にベストと思われる処方設計に入るのが一般的です。逆に言えば、(治験薬の)GMP上の製剤に対する変更管理は、Phase 1がスタートになるのが通常です*3

漠然とGMPの変更管理と言うのではなく、科学的な理由や背景を基にその起点も考えなければならないことを念頭に置くべきです。これだけはキッパリと言えます。治験薬についての変更管理とは、GMPにおける規制要件とは別に、本来その目的は、新薬を開発しようと思い立った時点から集大成としてのゴールとなる承認申請の履歴に他なりません。


3.    そもそもGMPの変更管理は品質だけの意味合いではありません。
GMPは品質のための法規制であり、その変更管理は品質としてのGMPの要件のひとつだと認識しているのであれば、大間違いです。そもそも、医薬品の品質は何のためにあるのか考えてみてください。品質がブレれば何が起こるか分かりますよね。そうです、安全性と有効性が担保できなくなってしまうのです。ドマさんも「ドマさんの徒然なるままに 第23話:医薬品開発の点と線・Part 1」の中で言っていたでしょ。『品質は安全性と有効性の源である』のです。承認申請という関門を“設計品質の確立”ということで、同じ品質のものを造り続けられるということを前提に承認されているのです。だからこそ、製造管理および品質管理によるGMPとして変更を管理しておかなければ、結果として製造品質(製品そのものの品質のことです)から生じる安全性と有効性が担保できなくなってしまう。そのための変更管理なのです。もう一度、背景にある真の目的と理由を考えてください。形式だけの変更管理が如何に恐ろしい行為か理解できますよね。

ましてや、設計品質が未確立の開発段階における治験薬の変更管理がどれだけ難しいか理解できませんか? 「その安全性や有効性を示した(治験薬を含む)開発段階時の製造品って、前回と今回で同等もしくはそれ以上と何を根拠に言っているのですか?」との問いに答えてください。「たまたま安全性にも有効性にも悪影響が無かった。」なんて言い訳にもならないことで品質はOKなんて言われたら、たまったものじゃないですよね。自分が服用する立場であれば。ムカつきませんか? そのイメージを図1に示しましたが、“品質という横軸における変更”だけでなく、その都度における安全性と有効性との相関がどうなっているか(どうなっていたか)を把握しておくことが大事です。

    図1:一般的な開発段階の変更管理の相関関係

治験薬を含む開発段階の変更管理が如何に重要なことか、再度認識し直してください。変更の記録は、申請に向けての開発の履歴であり、医薬品開発の肝なのですから。ドマさんも「ドマさんの徒然なるままに 第24話:医薬品開発の点と線・Part 2」の中で、『開発は品質を設計し決定する行為である』と言っていましたよね。


4.    ICHの各ガイドラインは、基本的に医薬品開発のためのガイドラインです。
2023年4月末時点におけるICHのQシリーズ(Q1~Q14)の、ドラフトを含むすべてのガイドライン、(承認申請に使用するか否かという差はあったとしても)直接的/間接的を問わず、開発段階のデータを基にしての活動ですよ。Q12ガイドラインなど、その目的から市販後変更と解釈されがちですが、そのためのデータ取りは開発段階のものがベースになるのではないでしょうか。CMCの研究者・技術者であれば、初回申請までに必要な最低限度のデータも、その後の改善・改良のための一変データもある程度の予測がついているはずです。そして、(初回申請時には不要あるいは時間的に間に合わないが)開発段階のこの時点で予備的に取得しておくと効果的 and/or 効率的といったデータがあることも認識しているはずです。ただ、ビジネスの観点からできるだけ早く初回申請し、承認を得たいという会社事情も考慮します。そんなことも踏まえ、市販後変更を容易にするために可能なデータについては準備し、規制当局にコミットしておくことと認識しています。そうじゃないですか? だって、もし何のデータも無しに市販後変更したいのであれば、(ビジネス的にはともかくとして)従来通りに時間をかけて一変したらいいだけでしょ。


5.    GMP省令・治験薬GMP基準やPIC/S GMPだけがGMPではありません。
監査時や事前質問状などで、「貴社(貴製造所)で対応しているGMPsは何ですか?」と尋ねてみたことはありますか? 大方は、GMP省令とPIC/S GMPとの答えだと思います。治験薬も製造していれば、そこに本邦の治験薬GMP基準が入るといったところでしょうか。さらに、海外(輸出)対応していれば、米国cGMPやEU-GMPが加わる感じかと思います。確かに法規制としては、その通りかと思います。

では、そうしている理由は何ですか? たぶん行政査察や委託者監査があるからでしょうね。では、逆にお尋ねします。もし査察や監査が入らないとしたら、先に述べた各種GMP、どこまでやりますか? 医薬品製造業許可があるので、GMP省令は必須ですよね。PIC/S GMPは“参考”としつつも、実際には行政査察時にチェックされている現実がありますよね。ということで、(問題発言かもしれませんが)仕方なくPIC/S GMPもやっているといるのが実状、少なくとも本音なのではないでしょうか。当たらずとも遠からずと言ったら、失礼ですかね。

では、WHO GMP関連は? 直接的な法的拘束力が無いからやらないといったところでしょうか? WHOの査察、必要に応じてはやることだってあるのですけど、知っていますか? 例えば、新型コロナ発生当初、中国の武漢にWHOの調査隊が入ったじゃないですか。あんな場合もあるのですよ。

では、続きは次話で。
ということで、後編(第54話)に続く。

 

 

では、また。See you next time on the WEB.

 

 

 

【徒然後記】

セミナーはやっぱり対面がいい
《注》本後記は、古田土先生がセミナー講師を務めるに際しての気持ちを素直に書いたものをそのまま掲載しています。
セミナーはやっぱり対面のオフラインが良いと思います。私のセミナーは、(元々、話の原稿が無いこともあって)受講者の所属は勿論のこと、顔色と雰囲気を窺って話の流れを修正しています。また、基本としては受講者からの(事前のみならず、当日の休憩時の)質問や相談を踏まえて内容の補足や強弱をつけています。オンラインでは、どうしてもヤリトリが事務連絡みたいになってしまうのです。特に事前質問については、一度目の回答した後での追加や確認には限界があると言わざるを得ません。
 

なぜ対面にこだわるかと言えば、質問や相談を受け、そのヤリトリを繰り返すことで、質問者の状況や真意が把握でき、より具体的かつ身近な回答ができることに加え、回答する私にとっても、「へーっ、そんなことがあるんだー。」として勉強になるからです。質問者からすれば自分が期待したレベルの回答が得られればそれで良い(納得しているかどうかは別です)と思うかもしれませんが、回答する立場としては、より質問者に沿った回答を与えたい、と同時に、私自身が情報や知識の追加として勉強したいと思っています。

来たるセミナー「シン・オールアバウト治験薬のGMP~医薬品開発における品質保証について~」の講師を務めます。なぜ治験薬関係かと言えば、承認後の医薬品GMPと違い、会社や開発品目により同じものが一つとしてなく、手法・状況が枠にはめられないことから私としても学ぶことが多いためです。オフライン/オンラインのチョイスは可能ですが、貴社として、ご自身として可能であれば、オフラインの対面で受講して頂ければ有り難い、と同時に、可能な範囲とはなりますが、ご質問・ご相談に応じたいと思っています。
 

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*1:本邦においては、薬機法施行規則第43条(申請資料の信頼性の基準)として、「申請に係る医薬品についてその申請に係る品質、有効性又は安全性を有することを疑わせる調査結果、試験成績等が得られた場合には、当該調査結果、試験成績等についても検討及び評価が行われ、その結果が当該資料に記載されていること。」とあります。本条項に示されている要件、他の要件も含めて、直接的には申請資料データのData Integrityに相当する内容ですが、それらデータの元を辿れば“前臨床試験時のデータ”である場合もあることに留意すべきです。

*2:ICH Q3A(R2)「新有効成分含有医薬品のうち原薬の不純物に関するガイドライン」および「新有効成分含有医薬品のうち原薬の不純物に関するガイドラインの一部改定」

*3:ICH Q3B(R2)「新有効成分含有医薬品のうち製剤の不純物に関するガイドライン」および「新有効成分含有医薬品のうち製剤の不純物に関するガイドラインの改定」

 

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