ドマさんの徒然なるままに【第23話】



第23話:医薬品開発の点と線・Part 1

はじめに
薬業界、COVID-19ワクチンや治療薬の開発で鎬(しのぎ)を削っている。米国・EUを筆頭に各国で承認され販売されれば、製薬会社の世界的番付さえも変えてしまうと言える。いや、そもそも病気はCOVID-19だけじゃない。しかも感染症だけじゃない。原因不明のものやまだ治療法が確立していないものまで含めれば山ほどある。そういう意味では、人類が生き抜いていくためには、医薬品の開発は永久に求められる。

医薬品の三要素と言えば、安全性と有効性と品質。これらの関係はどうなっているのか。GMP Platform読者の大部分は品質関係を中心になんらか医薬品に関わっている方々と推測する。関わっているからこそ、登録してアーティクルやトピックスを読んでいるはず。COVID-19パンデミックという、歴史に刻まれる事態が生じてしまった今だからこそ、医薬品に関わる者として、原点に戻って医薬品(クスリ)の品質と品質から見た医薬品開発を考えてみたい。

なお、今回のテーマについては、探索研究から工業化検討、さらに上市のみならず市販後の流通までを実務として経験なさってきた、筆者の尊敬する古田土真一先生監修のもと、先生のセミナー資料をベースに、むしろ古田土先生+古田ドマの共著といった形で執筆するものである。

1. クスリってなに?
さて、読者の皆さんに質問です。「クスリってなんですか?」 読者のほとんどは医薬品関係者のはずです。そうだとすれば、ご自身の取り扱っている製品のはず。いたって素朴な質問ですよ。そのご自身で取り扱っているものについて、「それってなに?」と尋ねているだけです。正解かどうかとは別に、答える義務があるように思いますが、いかがでしょうか。

2. クスリの品質ってなに?
では、もう一つ質問です。「クスリの品質ってなんですか?」 ご自身の取り扱っている製品の品質の効能・効果といった個別の話ではありません。クスリという、良く言えば全体の、悪く言えば漠然とした全体像に対する質問です。さぁー、皆さんどう答えますか? 一度考えてみてください。正解がどうかというよりも、普段あまり考えないが、クスリに関わる者として、それを生活の糧としている者として、なんらかの答えを持ち合わせているべきじゃないでしょうか。

3. 法的な定義
実のところ、クスリ(医薬品)に対する法的な定義は存在する。皆さんもご存知の「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下、薬機法と略)」の第2条第1項には、以下のように定義されている。
《注》当然ですが、「再生医療等製品」や「医薬部外品」「化粧品」「医療機器」
   などの定義も第二条別項として記されている。
 
第二条 この法律で「医薬品」とは、次に掲げる物をいう。
一 日本薬局方に収められている物
二 人又は動物の疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされている物であつて、機械器具等(機械器具、歯科材料、医療用品、衛生用品並びにプログラム(電子計算機に対する指令であつて、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。以下同じ。)及びこれを記録した記録媒体をいう。以下同じ。)でないもの(医薬部外品及び再生医療等製品を除く。)
三 人又は動物の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物であつて、機械器具等でないもの(医薬部外品、化粧品及び再生医療等製品を除く。)

ただ、これを知っていたからと言って、またこれを読み上げたからと言って、知識があることは認めるが、それがなんだと言うのか。知識を有していることと本人がどう考えているかとは必ずしも一致しない。大事なことは、本人がどれだけクスリについて認識し、その意義を理解しているかである。では、その存在意義ってなんだろうか。

4. クスリの存在意義って?
民間企業の立場としてザクッとまとめて言えば、「製薬企業は医薬品を製造・販売することで利益を得、それを元に新たな医薬品(新薬)を創出して、人々の健康と福祉に貢献すること」あたりなんじゃないだろうか。あたかも、製薬会社のホームページにある企業理念のような表現になるが、それは間違ってはいない。一言で言えば、診断か、治療か、予防かといった使い方の違いを別とすれば、「疾病で苦しむ患者を救うためのもの」あたりか。これは、クスリの目的でもある。難しく考える必要はない。なんとなくのイメージで構わない。ただ、自分の中で消化した形で認識しておくことこそが大事だと考える。

5. 誰がためにクスリはある
当たり前であるが、病気で苦しんでいる患者のためにある。健康であれば不要である。基本的に、クスリは人体からすれば異物にすぎない。だから使わないで済むなら使わないほうが良い。でも、ほおっておいたらヤバイ状態になってしまうということで、仕方なく使うものである。そんな物騒なものであるからこそ、安全性と有効性が問われるのである。では、その安全性と有効性って、どこでどうやって決まるのか? 考えてみたことありますか? 是非とも考えてみてください。考えることこそが、医薬品開発の全てであり、原点なのですから。

6. おクスリあたためますか?
コンビニでお弁当を買うわけじゃないが、患者さんに「おクスリあたためますか?」という気持ちを持って取り扱っていますか? もちろん、電子レンジで温めるわけじゃない。自分が関わる製品に対して、どれだけの注意・情熱・熱意・良心などといった感情を込めているかという問いかけである。大げさに言えば、クスリというモノを通じて人命救助の魂を持ち合わせているかどうかという確認である。患者さんに対する思いやり、それがクスリの品質を決定づけるファクターなのである。どんなに法規制を厳しくしても、実際にクスリを取り扱う者がいい加減であれば、品質はいっぺんに崩れる。会社であれば、その信頼や信用はいっぺんに崩れる。Quality Cultureが叫ばれているが、その構築や維持は難しいが、逆は一瞬にして起こる。その点をどれだけ認識していますか? 正直に言うと、Quality Cultureという言葉、筆者の感覚では大げさすぎて、あまり好きになれない。理由は、品質第一・品質重視が当たり前であれば(そういうレベルに達しているのであれば)、そんな掛け声や旗振りが必要ないからである。

7. クスリの品質を自分でイメージする
「2. クスリの品質ってなに?」の中での質問、「クスリの品質ってなんですか?」のあなたの回答は? 先述のように正解がどうかは求めていません。あなたのイメージで結構ですよ。さて、筆者のイメージを図示する。あくまでクスリということで、カプセル剤を模した。成分として存在するのは「有効性」と「安全性」である。「品質」はそれら両成分を包含して不用意に漏れ出さない(バランスを崩さない)ようにしている。そんなイメージである。
 

イメージだと記しているのは、冒頭で皆さんに質問した「クスリっなに?」、「クスリの品質ってなに?」の答えに正解はないという前提だからである。再度言うが、大事なことは、医薬品に関わる者として、自分のイメージを第三者に伝えられるように持っているかどうかであって、正解はなんなのかを気にすることではない。

このイメージを補足説明も加えて言葉で表せば、次のようになる。

あくまで筆者の言い分に過ぎないが、これを一言で言えば、以下に尽きる。


Part 1のおわりに
偉そうに話を進めているが、ときに忘れてしまうことだってある。目先の目的を優先し、その本質を見失ってしまうのである。医薬品産業に関わる者として最も大事なことを、もう一度胸に刻もうと。そしたら、思っていた以上に忘れかけていたことが多々あった。そこで、自戒の念も込めて自分の頭の整理の意味合いで書き綴っていった。すると、あれやこれやと自己の経験と反省が蘇る。かなり要点を絞って書いてはみたが、それでもお伝えしたいことが山ほどある。ということで、次話への年越しとなってしまった。読者の皆さんには申し訳ないが、続きは年明け後(2021年1月8日アップ予定)にお読み頂ければければありがたい。

【徒然後記】
早や師走となってしまいました。今年は新型コロナウイルスのまん延という誰しも予想しえなかった歴史に残る年になってしまった。読者の皆様方にあっては、お世辞にも良い年だとは言えなくなってしまったんじゃないでしょうか。そういう筆者もですが・・・。ただ、感染症は必ずや終息することは歴史が物語っています。来年には本邦にも有効なワクチンや治療薬が上市され、収束に向かうことを期待したいと思います。そう願いつつ、読者の皆様方にあっては良いお年をお迎えください。
 

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