知的生産性を革新する組織構造・空間構造【第8回】

2017/05/29 施設・設備・エンジニアリング

8. 空間構造の結論

6.5.空間構造の結論

空間要素はこれですべてではない。他にも独自の要素を取り込んだ施設もあるが、これまで述べた空間の要素を巧みに構成して理想的な空間構造が出来たとしても、組織構造や文化がリンクしていなければ、成果を上げることは出来ない。
一例としてC社の経験を紹介する。
C社の研究所は吹き抜けを中心にオフィスを配し、階段を設置し、さらに上下階から見える広い打ち合わせコーナーを階段の中間階に配置した。
そこには自動販売機も設置し、コーヒーも飲めるようになっている。
上下階を行き来するとき互いに視線が合い相手を視認でき、自然に出会いが増加し、異部門のコミュニケーションの機会が増える空間構造を実現した。しかし当初、期待したようにコミュニケーションが行われなかったのである。
その理由は研究者がインタラクション・コーナーで話をしていることが、研究をしないで業務を怠けているように見えると考えていたからである。
C社には、先ほどのB社のコーヒーショップカルチュアのような組織文化と組織構造がなかった。空間構造が如何に優れていても組織文化と組織構造がこれにリンクしていなければ組織能力はすぐに発揮できない一つの例である。
これをわかりやすく、スポーツの能力に例えると、空間構造は身体能力であり、
組織構造は技術の能力であり、組織文化は気力ということになる。
身体能力がいかに優れていてもそれだけでは競技に勝つことは出来ない。技術能力が高くても、同じ技術能力を持つ身体能力の高い相手には勝つことが出来ない。両方の能力を持っていても、更に気力の高い選手に勝てない。また、団体競技でマネジメント能力や組織アルゴリズムがなければ勝てない。
高い身体能力、技術能力に強い気力、優れたマネジント、組織アルゴリズムがあれることで、競争に勝つ条件が揃うのである。
 
終わりに
知的生産性の向上は知識経済社会の中、研究開発だけでなく、製造やサービスから物流、販売にいたるまで、知識の運用が必要なのである。知識統合経営は経済開発の内容を変え、新しい状況を創り出しつつある。グローバルな統合文化と新しい社会構造の発見が未来の希望的時代を構成する。日本だけでなく世界の既存システムが破綻を見せ始めている。懐古的帝国主義的な危険な思想や主張がその隙に蔓延ろうとしている。利己的資本主義経済から一段高い理念の資本主義経済への民主主義の発展がなければ、世界の危機から逃れることは困難である。
科学、テクノロジーの更なる発展による恩恵だが人間の進歩を表しているのではない。人類全体の前進はその恩恵や機会を等しく分けることできるモラルの進歩が重要なもう一つの恩恵なのである。
単なる知識から叡智へ発展させるプロセスが2つの恩恵の統合による進歩になる。

―――

参考文献
糀谷利雄/野間彰(2008)『ダイレクトコミュニケーションで知的生産性を飛躍的に向上させる研究開発革新』日刊工業新聞社
トーマス・J・アレン/グンター・W・ヘン(2008)『知的創造の現場』(糀谷利雄/冨樫経廣 訳)ダイヤモンド社
 

執筆者について

糀谷 利雄

経歴 1967年明治大学理工学部建築学科を卒業。
1982年大手エンジニアリング会社入社。
医薬を中心に、生産施設、研究所など多数のプロジェクトに参画し、高生産性を実現する施設のコンセプトを計画・設計する。
現在、株式会社シーエムプラス フェロー
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

連載記事

10件中 1-3件目

コメント

この記事へのコメントはありません。

書籍

株式会社シーエムプラス

供給者管理と監査のポイント

CM Plusサービス一覧

※CM Plusホームページにリンクされます

関連サイト

株式会社シーエムプラス

本サイトの運営会社。ライフサイエンス産業を始めとする幅広い産業分野で、エンジニアリング、コンサルティング、教育支援、マッチングサービスを提供しています。

ライフサイエンス企業情報プラットフォーム

ライフサイエンス業界におけるサプライチェーン各社が提供する製品・サービス情報を閲覧、発信できる専門ポータルサイトです。最新情報を様々な方法で入手頂けます。

海外工場建設情報プラットフォーム

海外の工場建設をお考えですか?ベトナム、タイ、インドネシアなどアジアを中心とした各国の建設物価、賃金情報、工業団地、建設許可手続きなど、役立つ情報がここにあります。

※関連サイトにリンクされます