新・医薬品品質保証こぼれ話【第24話】

執筆者の連載をまとめた書籍を発刊「医薬品品質保証のこぼれ話

「サプライチェーン安定確保の考え方

NHKの連続テレビ小説、通称“朝ドラ”の『舞いあがれ』は昨年10月(2022年)に始まり、東大阪と長崎・五島列島を舞台に、心あたたまるストーリーを展開してきましたが、いよいよ3月末に最終回を迎えます。この東大阪の町工場ではネジやバネなど様々な工業部品が製造され、その品質の高さは世界的にも有名です。こういったネジやバネなどの部品は、どの一つが欠けてもそれらを必要とする工業製品を造ることができません。同様に、医薬品の場合も原材料のどれが欠けても製品とすることができず、また、製造に使用する製剤機器の部品などについても同じことが言えます。

現在、様々な産業分野において、こういった原材料や部品等の調達が以前のように円滑に行えず大きな問題となっていますが、このことは医薬品の領域においても例外ではなく、すでに関係各方面においてこの問題が議論され、それぞれに対策も講じられてきています。しかしながら、決め手となる解決策の道筋は今なお見えていないのが現状です。このような状況を招いた大きな原因の一つが、この十数年の中国等の経済発展に便乗し、挙ってこれらの国の安価な原材料や部品の輸入に努めてきた結果が招いた“過度な海外依存”にあることは間違いありません。

医薬品の有効成分たる原料(以下、「原薬」)について言えば、十数年前はまだ国産の原薬の割合もそれなりに大きく、国産品を海外品と並行して使用することにより海外品の品質や調達のリスクを回避することもできました。しかし、この5年あまりの期間で状況は大きく変わり、あらゆる種類の海外原薬が導入される中、価格競争から製造中止を余儀なくされる日本の原薬メーカーが年毎に増え、海外原薬への依存度が急速に高まりました。

このような状況下、異物混入をはじめとする海外原薬にまつわる様々な品質問題が発生し、加えて、環境問題、パンデミック、政治・外交などの問題(グローバルリスク)も影響し、想定外の調達リスクを招く結果となっています。こういった状況は原薬のみならず、一般原料(添加剤)や製造工程に使用するフィルターといった消耗品などにも及び、医薬品の安定生産・安定供給に少なからず影響しているのが現状です。

こういった状況の中で、原薬はもとより、原材料や部品を安定的に確保し、医薬品生産を安定化させるためにどういった考え方で対応し、どのような対策を講じるのがよいかということが、各企業においての喫緊の課題の一つとなっています。これへの回答としてまず注目すべきは、改正GMP省令において要件化された“供給者管理”であり、この業務を通して、必要とする原材料の安定確保、つまり、それぞれの企業のサプライチェーンの安定化を計る、という考え方です。

しかしながら、各企業が医薬品製造に使用する“原薬、原材料、部品、部材”の種類は膨大であり、これらすべての供給者の管理を的確に推進するのは容易ではありません。また、医薬品製造には試験検査が必須であり、これに使用する多種多様な試薬・試液や試験器具なども含めると、供給者管理の対象となる物品はさらに膨大な数にのぼります。こういった状況を鑑みて、“供給者管理”推進のポイントとして“リスクベースの管理”が推奨されていますが、リスクに応じて書面調査や実地監査の頻度を定めるといった考え方だけでは、その間に発生する不都合な状況の把握とそれへの対応が適時にできないことから、堅牢なサプライチェーンの管理とは言えないでしょう。
 

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