新・医薬品品質保証こぼれ話【第20話】

執筆者の連載をまとめた書籍を発刊「医薬品品質保証のこぼれ話

「運用の妙」と法の足かせ

中国の古典に「運用の妙は一心に存す(運用之妙存乎一心)」という言葉があります。これは“兵法はそれだけでは役に立たない。それを臨機応変に用いる妙味はその人の心一つにある”という諭しですが、要は、何事も型どおりに対応していたのでは上手くいかないという、経験から得られた人間の知恵と解されます。囲碁でいえば定石を理解しながらも、実践ではそれにこだわらず全体を俯瞰し、状況に応じた最良の一手を打つことの大切さに通じます。

今の日本の規制とその運用のあり方を見たとき、法治国家であることが随所で強調され、定められた法令が状況にかかわらず型どおりに適用されるという傾向が感じられます。このこと自体は悪いこととは言えませんが、時にそれが足かせとなり重要な課題の解決の妨げになるといった、自縄自縛にも似た状況を招いているように思えます。

新型コロナウィルスによる感染拡大の第8波が長引く中で、この感染症の感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)における位置づけについて本格的な議論が進められる兆しが見えますが、この議論にも上記のような柔軟性を欠くきらいを感じます。論点は、簡単に言えば、感染症法上の位置づけを“2類から5類へ移行させるべきか否か?”ということのようですが、この正体の解明しきれていないウィルスとの戦いは未だ道半ばであり、話はそんな簡単ではないはずです。このウィルスの特性を鑑みた感染対策の要点をもう少し的確に整理する必要があるなど、分類の議論をする前に整理すべき課題はたくさんあるようにも思えるのですが。

感染症に関する分類はこの法律の「第6条(定義等)」で詳しく定義され、これを根拠に届け出の必要性や、入院勧告・就業制限の要否などについてきめ細かく規定されています。ちなみに、分類は「1類感染症、2類感染症、3類感染症、4類感染症、5類感染症、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症および新感染症」の8つのカテゴリで構成されています。この分類と定義の目的は言うまでもなく、様々な感染症の拡大をより合理的、効果的に防止することにあり、その考え方の基本は、それぞれの感染症の原因となる細菌やウィルスの感染力や毒性などの特性と、人への健康被害や致死率など危害の度合いから判断され定められています。

新型コロナウィルス感染症は、現在、上記分類の「指定感染症」に分類されており、その規制の内容から“2類相当”とされていますが、巷では“2類から5類に移行させるべき、あるいは、5類への移行は時期尚早である”といった分類変更の話が一人歩きし、そこから一歩踏み込んだ議論の深まりに確たる進展が見られません。重要なことは、どこに分類するかということではなく、このウィルスの特性とこれまでの対応経験から得られた知見を基に、感染防止のためのより的確な対策法を具体的に考案し、それを実践することなのですが、法律で定められた規制の枠(現在の分類)に捉らわれ、本質的な議論が深まらないのが残念です。
 

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