医薬品の技術移転のポイント【第20回】

実際の事例から、技術移管時に確認したい項目を紹介します。

技術移管時に確認したい品質保証
1)アンプルのラベル無し製品苦情対応(ラインでの全数保証/フェールセーフ機構)

 現場からの調査回答は理解し難いものでした。何故ラベル無しができるかの説明がわかりませんでした。こういうときは、3ゲン(現場・現物・現実)、5ゲン(原理・原則追加)の実践です。実際の作業者と話をしてわかりました。
 当時のライン設計はアンプルの位置が正しくないとラベルを貼付せず、それをセンサーでラベル無しを検知して排除する機構でした。正しく排除したかどうかまでは見ていませんでした。つまり、ライン上にラベル無し製品が流れており、言葉を変えるとラベル無し製品を作るラインでした。そこでライン設計の考え方を変更しました。

ラベルをきれいに貼る≫ラベル無し製品は作らない から
ラベルをきれいに貼る≪ラベル無し製品は作らない  へ

改善後は、どんな場合でもラベル貼付後、排除することにしました。かつ、それまではラベル無しをセンサーで確認し、ラベル無しがあればその信号をラインに送り不良品として排除していました。それではセンサーの電源が切れていたらラベル無しも良品になります。また、センサーが1/10回でも誤動作すると正しくラベル無しの信号をラインに送らないために良品になります。そこでセンサーはラベル無し⇒ラベル有りを確認するようにし、ラベル有りの信号をラインに送り、その信号があって初めて、ラインは製品を良品側に送ります。つまりフェールセーフのラインに変更しました。悪いことがラインで起きたとき、不良品を良品としないラインです。水道の蛇口がわかりやすい例です。阪神淡路大震災時、上からの落下物で水道の蛇口から水が出っぱなしになりました。当時はレバーを下げて水を出していました。新しい水道の蛇口はレバーを上に上げた時に水が出ます。すなわち、悪いことが起きたときに、二次的な悪いことが起きないフェールセーフ機能になったのです。
 このラベル無し製品苦情をきっかけにして、ラインで全数保証(表示資材は全数バーコード確認など)、ラインはフェールセーフに見直しました。また委託先のラインもこの視点で確認し、出来ていなければ設備導入をお願いしました。QAとしては譲れない項目です。
  
2)テストサンプルの確認

  • テストサンプルは
    • 前もって作成するもの
    • 毎回作成するもの     両方があります。
  • 製造記録上でテストサンプルの計数確認
    廃棄確認を行った(ダブルチェック)記録を残す。
  • 前もって作成する物の場合
    • 全体の数管理    
    • 持ち出し時の記録(名前とテストサンプルの名称)
    • 製造終了時に戻したことのダブルチェックでの確認

【大阪府】日本製薬を業務停止処分; テスト用アンプル誤出荷で 薬事日報
 大阪府は13日、武田薬品工業の子会社である日本製薬の大阪工場(大阪府泉佐野市)が、医療用注射剤「アリナミンF5注」(ロット123)のテスト用アンプル(必須アミノ酸であるメチオニンとブドウ糖の混液)として製造された「限度見本」を誤って包装出荷したと発表した。府は薬事法に基づき同日、日本製薬の大阪工場を今月14日から12日間の製造、出荷業務の停止とし、製造委託した武田薬品に対しては管理監督責任があったとして業務改善命令の行政処分を行った。

⇒製造所の管理において下記がどうなっていたかの疑問が出て来ます。確実に行われていなかった可能性があります。
 疑問1; アンプルの計数管理は?
 疑問2; ラベルの計数管理は?
 疑問3; テストアンプルの管理は?
 疑問4; テストアンプルの見た目は?(製品と明らかに違うようにする)

技術移管とは相手先で物造りができるだけではなく、恒常的に品質が維持され、製品回収などの品質トラブルを引き起こさないことです。研究開発部門は設計通りにできるか、製造部門は決められた時間に決められた量が製造できるかの視点に重きをおき、製品回収防止の視点は弱かったです。そこはQAが、「このラインは製品回収を起さないかどうか」をよく確認する必要があります。いまや、QAはラインの品質保証、特にクロスコンタミ防止、製品回収防止の視点で確認し、弱い点があれば改善要望を出す必要があります。そのためにはライン研究開発をよく知ることです。
 

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