【第6回】CSVからCSAへ データインテグリティも踏まえたFDAの新ガイダンス動向

2023/01/20 施設・設備・エンジニアリング

本ドラフトガイダンス特有のリスク分類について。

本ドラフトガイダンス特有のリスク分類
GMP領域においては、FDAが2002年に” Pharmaceutical CGMP Initiative for the 21st Century – a Risk Based Approach”を開始して以来、自らのリスクアセスメントに基づいて何かを判断することが、我が国も含めて世界共通の必須概念となった。しかしながら、リスクアセスメントを実施するに際しての基本的な考え方と具体的な実施方法論が必ずしも定式化されているわけではなく、リスクアセスメントを実施する担当者の悩みの種となっていると筆者は常に感じている。本ドラフトガイダンスにおいても、リスクアセスメントに独自の考え方が採用されており、それを理解する必要がある。
まず第Ⅴ章B節では大きくリスクを、つぎの2つに分けている。
○ プロセスリスク ― 生産または品質システムを危険にさらす可能性
○ 医療機器のリスク ― 機器が患者やユーザーに危害を与える可能性
ここで、プロセスリスクと医療機器リスクは完全に独立しているものではないと考えられる。高いプロセスリスクが高い医療機器のリスクを連鎖的に引き起こすことがありうるからである。しかし、低いプロセスリスクが高い医療機器リスクを引き起こす可能性はあまりないであろう。
さらにプロセスリスクに関して、本ドラフトガイダンスで規定されるリスクのレベルは以下の2通りだけである(普通よくみられる「中程度」というリスクレベルは規定されないこととなっている)。

高いプロセスリスク:ソフトウェアのフィーチャー、ファンクション、またはオペレーションが意図したとおりに実行されないことにより、安全性を損なう品質問題が発生する可能性があり、医療機器のリスクが高まる可能性がある場合

高くないプロセスリスク:ソフトウェアのフィーチャー、機能、または操作が、意図したとおりに実行されなくても安全性を損なうことが予見できる品質問題につながらない場合

そして、それぞれに該当する例を次のように列挙している。これらは、医療機器製品の製造に関する例であるが、医薬品の製造に関してもそのままあてはまるといえよう。

<高いプロセスリスクを有する例>

  • 医療機器の安全性または品質に不可欠であると特定された製品または製造プロセスの物理的特性に影響を与えるプロセスパラメータ (温度、圧力、または湿度など) を維持する
  • 製品またはプロセスの許容可能性を測定、検査、分析、および/または決定する際に、人による追加的な認知またはレビューが、制限されているかまたは全く行われていない
  • データ監視または他のプロセスステップからの自動フィードバックに基づいて、人による追加的な認知またはレビューなしで、プロセスの是正またはプロセスパラメータの調整を実行する
  • 医療機器の安全な操作に必要な、患者およびユーザーに提供される使用説明書またはその他のラベルを作成する
  • 製造業者が医療機器の安全性と品質に必須であると特定したデータの監視、傾向分析、または追跡を自動化する

<高くないプロセスリスクを有する例>

  • 生産またはプロセスのパフォーマンスに直接影響を与えない監視およびレビューの目的で、プロセスからデータを収集および記録する
  • 是正措置・予防措置 (CAPA) ルーティング、苦情の自動ロギング/追跡、自動変更管理管理、または自動手順管理の品質システムの一部として使用される
  • データの管理 (データの処理、保存、および/または整理)、既存の計算の自動化、プロセスの監視の強化、または確立されたプロセスで例外が発生した場合のアラートの提供を目的としている
  • 前述の第Ⅴ章A節(前回連載第5回に掲載)で説明されているように、生産または品質システムをサポートするために使用される

上記の定義と例に基づいて考えると、MES/ LIMS/ CDS/ DMS/ QMS/ SCADAについては前々回連載第4回で述べたように、DMSとQMSの一部の使い方を除いてほとんど高いプロセスリスクを有する例にあてはまると思われる。従って、本ドラフトガイダンスにおける3つめのキーワードは「高いプロセスリスク」である。筆者は逆に、高くないプロセスリスクの例にあてはまる具体例を即座に思いつくことができなかった。
 

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執筆者について

的場 文平

経歴 2019年1月より小野薬品工業株式会社 CMC・生産本部 分析研究部所属。
医薬品GMP分野におけるITシステム、特にMES、LIMS、CDSの取り扱いを専門とし、最近4年間はデータインテグリティ確保に関して執筆・講演。じほう社刊佐々木次雄/編「FDAのGMP査察から学ぶ 第2版 読めばわかる査察官の視点・指摘の意図」の「第2章 医薬品に対するForm 483とWarning Letters」、「第6.10章 データ管理とデータの完全性」の執筆を分担。過去にアストラゼネカ株式会社(2006年)、富田製薬株式会社(2017年)、日本イーライリリー株式会社(2018年)に勤務。2007年1月~2017年3月の約10年間は独立行政法人医薬品医療機器総合機構 情報化統括推進室にて薬事申請承認許可業務管理システムの企画・運用・保守業務およびEMA EudraGMDPシステム端末の国内導入設置業務、ならびに医療情報活用推進室にて医療情報システム(MID-NET)のインフラ構築業務に従事。2002年~2005年には、日本アイ・ビー・エム株式会社およびIBMビジネスコンサルティングサービス株式会社(当時)にて、製薬・医療機器製造企業向けのPart 11対応/ER・ES指針対応/CSVのコンサルティング業務に従事。2004年にはISPE GAMP JAPAN ForumのGAMP 4翻訳チームリーダーとしてGAMP 4日本語訳出版を推進。自称「FDA情報収集オタク」、「英文ガイダンス文書速攻翻訳家」、「替え歌作詞家」。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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