新・医薬品品質保証こぼれ話【第19話】

執筆者の連載をまとめた書籍を発刊「医薬品品質保証のこぼれ話

「三方よし」が事業継続の基礎

昨年(2022年)も後発医薬品(以下、「後発品」)を中心に違法製造による行政処分が原因でいくつかの製薬企業が経営不振に陥るなど、医薬品業界にとっては問題の多い年でした。大手後発品企業の傘下に入り事業継続を目指す受託製造所や、多額の債務超過に陥り事業再生ADR手続きにより経営の立て直しをはかる企業など、それぞれの事情に合わせ再生に向けて進められています。この状況の中、極端な経営不振とならなくても、毎年の薬価引き下げにより年々収益率が下がり、さらなる体力の低下が懸念される企業も少なくないと推察されます。

経営不振の原因は製造現場で発生するGMP省令違反など品質問題が原因の行政処分だけではなく、その企業の経営全般に関わることは当然ですが、行政の施策のあり方も少なからず関係していることは否めないでしょう。現在の薬価改定のあり方はその代表と言えるのではないでしょうか。昨年末の2023年度の薬価改定を巡る議論においては、今の厳しい医薬品業界の実情を踏まえた切なる要請にもかかわらず、支払い側の十分な理解が得られず、最終的に幅広い品目において薬価引き下げが決定されました。

実勢価格と薬価との乖離率を根拠に毎年改定される現行の薬価制度は、改定の仕組みそのものが、年々薬価が下がるシステムになっており、これにより新薬開発の国際競争力の低下や、日本の医薬品市場の魅力の低下を招き海外企業の積極的な参入の障害となるなど、日本の医薬品業界全体の活性化に影響を与えているとの見方もあります。

ビジネスに限らず、世の中を上手く回すためには「三方よし」という、近江商人の知恵が参考になると思われます。関係する皆がそれぞれ少しずつ利益を分け合うことにより皆が幸せになるという考えですが、この考え方は事業の継続性の確保という観点からも重要と言えます。事業は自分だけ、自分の企業だけが儲かっても継続性は確保できません。たとえば、原材料費を削減するために、供給者に購入価格の値下げを要求し続けた結果、供給先が倒産したら、以後、原材料が調達できなくなり、自らの製品が製造できなくなります。関係するそれぞれの企業・組織・機関がすべて健全な状況を保つことができてはじめて、自らの事業も継続できる。このことを十分認識することが大切ではないでしょうか。

今、世の中はSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標 )やBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)といった言葉に象徴されるように、事業や地球環境など重要なものの「継続性」が注目されています。これは、グローバル化や情報技術の進展に伴い、豊かさや便利さが簡単に手に入れやすくなった半面、これまで経験のない想定外の様々なリスクに次々に見舞われ、これまで当たり前のように継続できていたことができない状況を鑑み、その重要性が見直されたものと思われます。

この「継続性」の確保という観点から、今の日本の医療を俯瞰するとき、重要課題として先ず「コロナ対策」と「医薬品不足の解消」の二つが挙げられます。コロナ対策に関しては「医療崩壊を招かない」ことはもとより、医師など医療従事者の負担を軽減し「健全な医療の継続性の確保」を念頭に様々な角度からの必要な支援が求められます。一方、「医薬品不足の解消」に関しては、目下の状況の改善策としての、欠品等の情報の関係者への共有による「偏りのない配薬」と製薬企業における増産体制や改正GMP省令に依拠したGMPの的確な推進が重要課題となるでしょう。
 

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