新・医薬品品質保証こぼれ話【第18話】

執筆者の連載をまとめた書籍を発刊「医薬品品質保証のこぼれ話

「違法製造は結果」

後発医薬品(以下、「後発品」)の製造所を中心に違法製造が多発し、この違法製造が「原因」で医薬品不足が生じていると一般に認識されていますが、本当にそうでしょうか。結論から言いますと、この「違法製造が医薬品不足の原因」とする考えを見直さないと、今の深刻な医薬品不足の状況は解消されないでしょう。どんな問題の場合でもその原因には「誰からも見える表面的な見かけの原因」と、「根底に潜んでいる真の原因」があります。後者がGMPでいう根本原因(Root cause)にあたりますが、この根本原因を究明してそこに対策を打たない限り問題の解決にはならず、同じ事案が再発します。このことはGMPにおける工程トラブル対策の基本的な考え方ですが、どんな問題にも共通して言えることです。

根本原因に対して対策を打つという考え方は、医療で言えば、化膿性の腫物ができたときに、皮膚表面に抗菌剤をいくら塗りつけても治癒は期待できず、根っこの病巣にメスを入れ、膿を出し切ってはじめて完治が期待できるといった状況に例えられます。今の医薬品不足の原因の受け止め方は、一様に「違法製造が原因」とされていますが、この腫物の治療と同じように、根本にある原因を見極めそれに対して対策しないと今後も同様な違法製造事案が発生し、供給不安はさらに深刻さを増すことが危惧されます。

ヒューマンエラー研究の領域では、冒頭の二つの原因に関して「当事者エラー」と「組織エラー」という表現がなされます。当事者エラーとは現場で作業者が実際に何らかのトラブルを引き起こし、表面に現れる事象そのもの(結果)を指し、組織エラーとは、その問題事象を誘発した組織上の問題(原因)を指します。製薬工場で生じる様々な品質トラブルの原因を究明する際にも、多くのケースにおいて、この組織エラーに着目して調査し根本原因となる事柄を是正しない限り、再発を繰り返すとされています。こういった場合、問題を引き起こした当事者に責任を求め、教育訓練などを改善対策として行っても改善が期待できないことは多くの方が経験されているのではないでしょうか。

例えば、生産計画が過密状態にあり、連日連夜の生産により疲労困憊の中で作業が継続されていた結果、原薬の秤量ミスが生じた、といったケースがこれにあたります。この場合、表面的には、現場で秤量を行った作業者(当事者)のミス(エラー)に見えますが、真の原因は無理な生産計画を組織として容認していた状況、つまり、組織エラーが根本原因と考えられます。従って、対応策としては生産計画を現状より過密でない状況に改善し、作業者が余裕をもって作業ができる状況をつくり出すことが必要です。
 

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