医薬品設備建設における「オーナーのプロジェクトマネジメント2nd改訂版」【第19回】
今回は試運転ステージ後の引き渡しについて、記載する。プロジェクトマネジメントにおける一般的な引き渡しは、コントラクターから製薬企業への引き渡しと、製薬企業内のプロジェクトチームからユーザー部門(生産部門)への引き渡しの2種類がある。
19. プロジェクトの引き渡し(コントラクターからの引き渡し)
(1)コントラクターからの引き渡し手順
コントラクターからの引き渡し手順については事前に決めておく必要がある。この手順に従い引き渡しを受けることになる
コントラクターからの引き渡しには、一括引き渡しと部分引き渡しの2種類がある。プロジェクトの規模が小さい場合には一括引き渡しが可能であるが、大規模なプロジェクトにおいては一般的には部分引き渡しを採用する。部分引き渡しとは、例えばユーティリティ設備や付帯設備、生産設備などの試運転が終了次第、段階的に引き渡されるような方法である。あるいは、さらにエリアごとに区切って段階的に引き渡されるような方法である。まずユーティリティ設備の引き渡しを受け、ユーティリティの運転については製薬企業にて行い、他の付帯設備や生産設備の試運転に必要なユーティリティを供給する。そして、付帯設備や生産設備はコントラクターにて試運転を行う。ついで、付帯設備や生産設備の試運転が完了し、段階的に製薬企業に引き渡される。いずれにしろ部分引き渡しでは全プロジェクトを一括して引き渡すものではない。一括引き渡しの場合は、引き渡しに至るまでの試運転時の設備運転をコントラクターにて全て実施する必要があり、コントラクターにて数多くのオペレーターが必要となる。それは、結果的には製薬企業への見積り金額に含まれることとなる。部分引き渡しを行えば、コントラクターで準備するオペレーターは少なくてすみ、結果的にはコントラクターからの見積り金額は減少する。また、製薬企業にとっても段階的に引き渡しを受ける方が業務ピークを避けることができ、また、教育訓練も段階的に行なえるため、部分引き渡しはコントラクターおよび製薬企業にとって有利な方法といえる。ただし、この時期にコントラクターと製薬企業の作業員が同じようなエリアで作業をすることになるため、安全・防災などの管理を明確にする必要がある。
引き渡し時の問題点として、引き渡し対象の設備の所有権、管理権、設備そのものを同時に引き渡されるとは限らない。例えば、契約条項によるが機器や建設資材が現地に納入された時点で所有権を引き渡される場合がある。また、コントラクターとの契約において模擬液試運転までを含んでいる場合、溶媒などを扱う模擬液試運転では設備の運転そのものはコントラクターでは安全上避けるべきであるため、水試運転完了時に管理権のみの引き渡しを受け、模擬液試運転終了後に最終引き渡しとする。したがって、引き渡しの方法を契約時点で明確にしておく必要がある。さらに付け加えると引き渡しが複雑であるため、設備や作業員に対する保険などに抜け落ちのないようにコントラクターと製薬企業との間で調整をする必要がある。
(2)引き渡し時のドキュメントパッケージ
以下の引き渡しドキュメントは、契約範囲やプロジェクトにより異なる。また、必ずしも試運転ステージ終了後に一斉に引き渡されるものではなく、必要に応じて試運転ステージや試運転ステージ以前に引き渡されるものもある。また、図面類は完工時点のものに修正追記したものでなければならない。また、正式なレビューや承認の必要なドキュメントについては、レビューや承認が実施されていること。さらに、不完全なドキュメントであれば、これを修正する要求を行い、完全なドキュメントを受領する必要がある。引き渡し後に、ドキュメントの不完全が発見された場合は、コントラクターにて修正責任がある。
・ 各種仕様書
・ 設計計算書
・ P&ID、フローシート、
・ マテリアルバランスシート、ヒートバランスシート
・ 機器リスト、計器リスト、モーターリスト
・ 一般配置図、機器配置図
・ 機器図
・ 建築図、基礎図、建築仕上げ表
・ 配管図、空調図
・ 電気図、計装図
・ コンピューター関連ドキュメント
・ 施工要領書
・ 工事検査書、材料証明書、工事記録書、その他の証明書類
・ FATを含むコミッショニングドキュメント
・ クオリフィケーションドキュメント
・ 建築確認申請あるいは同様の許可証
・ PHA、HAZOPなどの承認済みの安全面の文書
・ オペレーションマニュアルとメンテナンスマニュアル
・ 保証書
・ メンテナンス契約書
・ 予備部品一覧表(機器サプライヤーによる推奨予備品など)
・ 校正手順書と証明書、校正計器リスト
・ 潤滑油リスト
・ その他
(3)引き渡し可能となる条件
コントラクターからの引き渡しが可能となる条件については、契約条項などで事前に決めておく必要がある。もちろん各検証は完了し、契約仕様書どおりであること、所定の要求事項や性能・能力を確認できていることなどが条件になるが、一部の手直し工事が残っている場合についても引き渡しを可能とする場合がある。どのレベルの手直し工事(塗装のタッチアップのような後ステージの試運転や生産に影響しない程度の手直し工事)や、どの程度のボリュームの手直し工事(たとえマイナーな手直し工事であっても残件の数を制限するなど)が残っていても引き渡しが可能と判断できるかを事前に決めておく必要がある。その他に前述の引き渡しドキュメントが揃っていることも条件の一つである。
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