GCP監査入門【第9回】

 治験を効率よく進めるために、ベンダーを利用することが一般的となっている。全ての治験業務をCROに委託する治験依頼者も多い。今回はベンダーを対象とした監査の話をしよう。そして、ベンダーに業務委託するに先立って必要な要件調査についても紹介したい。要件調査はGCP上の監査とは異なるが、その手法や考え方は今まで紹介してきたシステム監査と共通するものがある。
 

その他の施設
 GCPの随所に記載されている「治験の実施に係るその他の施設」とは、治験の実施、すなわちGCP省令第四章に係る施設であって実施医療機関以外の施設を指すことから、治験施設支援機関(SMO:Site Management Organization)や臨床検査会社を意味すると考えられる。一方で「治験に係るその他の施設」という記載もある。この場合は「治験の実施」に限定していないことから、治験の依頼の基準であるGCP省令第二章及び治験の管理の基準であるGCP省令第三章を含むことになるのであろう。したがって、治験の依頼と管理に係る業務を受託する開発業務受託機関(CRO:Contract Research Organization)や治験薬運搬業者などを含めた意味になる(図1)。
 これらの「その他の施設」以外にも、治験薬の製造や保管あるいは資料の保管や翻訳等の多種多様なサービスを提供する業者(ベンダー、Vendor)が治験を効率よく進めるために活用される。

ベンダーオーディット
 GCP省令第23条のガイダンスで「監査担当者も必要に応じて実施医療機関及び治験に係るその他の施設を訪問し」と記述されているとおり、監査担当者はベンダーを対象とした監査を行うことがある。これがベンダーオーディット(Vendor Audit、ベンダー監査)である。ベンダーオーディットでは、いままでの「GCP監査入門」で紹介してきた治験依頼者と実施医療機関に対する監査と、もちろん監査手法は同じでありながらも、それぞれのベンダーに応じた事項が監査対象となる。ここでは紙面の都合上、CROと薬物濃度測定機関について簡単に紹介しよう。
 治験の実施中又は終了後にCROを訪問する場合は、通常は個々の治験の監査、すなわちモニタリングの実施状況や総括報告書の作成経緯などを確認するのが主な目的である。また個々の治験の監査とは別に、定期的なベンダー管理の一環としてシステム監査のみを目的として2-3年に1度の訪問による監査を実施することもある。この場合は、前回の監査を行った以後に、手順書の改訂やGCP組織の変更などが行われていれば、その変更点を中心とした監査を行う。
 薬物濃度測定機関はGLP体制で運用しGLP適合性調査の認証を受けているのが一般的である。したがって監査対象項目としてデータを確認する場合は、試験のQA活動が終了した段階で訪問して信頼性保証部門による調査記録を監査対象とすることでも良いだろう。

ベンダーの要件調査
 ベンダーを適切に選定し、管理することが治験を成功に結び付ける重要な要因であり、規制当局による適合性調査においてもベンダーを選定した理由と管理方法が確認されることがある。その選定のための要件調査には治験のシステム監査の手法が応用されている。
 治験依頼者が治験に係る業務をベンダーに委託するにあたって、複数のベンダーを調査し、その中から委託する業務に必要な要件(費用と業務実施期間を含め)を満たした適切なベンダーを選定する。要件調査を行う際の調査項目として、ベンダーの経営状態(関連会社、社員数、離職率)、業務実施体制(会社組織、GCP組織)、受託実績、業務手順書、教育訓練体系、ITシステム、施設設備などが挙げられる(図2)。したがって、今までの「GCP監査入門」で紹介してきたシステム監査と同様の視点・手法で、選定のための要件調査が行われていることがわかる。

 ベンダーの要件調査はGCP省令第23条の監査ではないので、調査を担当するのは監査担当者でなくてもよい。例えば、開発担当部門(モニタリング、データマネジメント、治験薬保管等)や購買部門が実施することもあるが、その場合であってもGCP監査担当者が調査に同行するなど、何らかの方法で関与したほうが良いだろう。なぜならば、ベンダーの要件調査は GCPシステム監査と同様の視点で確認することを述べたが、これらの知識や経験があるのはもちろん監査担当者だからだ。
 治験依頼者がベンダーに対して要件調査を行うタイミングは、業務の委受託契約を締結する前であり、秘密保持契約を締結した後になる。すなわち、ベンダーと秘密保持契約を締結し、要件調査を実施し、その結果問題なければ業務委受託契約を締結して業務開始となる。調査の結果、委託するうえでの懸念があり明らかに改善が必要と判断する場合は、業務を委託しないという決定をし、他のベンダーを探すことになる。もちろん改善提案をベンダーが受け入れ、短期間に改善されるようであれば、その内容によっては委託する決定を行ってもよく、あるいは再調査で改善結果を確認できれば委託を決定しても良い。
 

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