省令改正案検討の経験からみるGMP省令改正のポイント【第11回】

本文では品質情報(第16条)、回収処理(第17条)、自己点検(第18条)及び教育訓練(第19条)、コラムでは「異物」に係る回収通知の背景を解説します。

品質情報及び品質不良等の処理(第16条)
 品質情報、品質不良は2004年のGMP省令改正(同時にGQP省令新設)の際に、それまでの苦情処理から変わったものです。品質情報は省令には「製品に係る品質等に関する情報」と間接的に定義されています。品質不良は直接の記載がなく、GQP事例集での「製造販売承認書に記載された内容その他所要の品質に適合していない」によります。なお、品質情報の定義中、品質等の「等」は、従来の施行通知に「資材に係る品質」とされています。この品質情報は2005年の薬事法改正前にいくつかあった安全性への問題事例等を踏まえて登場してきたもので、どういった範囲が対象になるかという疑問に対しては、GMP事例集2022年版⑴のGMP 16-1には、「当該製品や類似製品、製造プロセス等に係る海外規制当局や学会からの情報や当該製造業者が、海外の原薬たる医薬品に係る製品製造業者や製剤製造業者に対して当該品質情報に関する調査を依頼し、原因究明やCAPA等の結果の報告が得られた等の情報等製造業者等で入手した品質等に関する情報」と若干難解な表現になっていますが、つまりは出荷する製品の有効性・安全性に関わるものは全てというのが正解でしょう。第16条第1項は全般的には記載されることは従前通りですが、第1号から第4号へ手順の流れがわかるようになっていること、用語として、製造・品質関連業務、是正・予防措置、報告~確認を受ける先がQAであるといった整理がされています。第2項は従前どおり品質不良の対応で、製販への連絡が追加されています。記録する事項については、少し詳細に課長通知に解説されています。

回収等の処理(第17条)
 回収等の「等」はパブコメにあるように、使用又は不適とされた原料、資材及び製品の保管及び処理について追加した第2項を考慮してということになります。従来、回収の判断にはGQPマターであり、製造所はそれに関する作業の一部を担うことになっていて、今回の改正でそれがより整理されたものになりました。
 第2項は既述のとおり使用又は出荷に不適とされた原料、資材、製品に関わるものであり、その関係からOOS(第11条)、逸脱(第15条)と連動します。

自己点検(第18条)
 本条は、「製造・品質関連業務」及びQAの文言の整理のみとなっています。筆者がこれまで得た情報から、GMP省令の各条を分割して点検することは既知のとおり可能ですが、年間を通じて全条を終了していない場合(後述)や、単にチェックリストにチェックを入れただけのもの(確認が浅いということで)は指導を受ける事例があります。なお、第11条の5に準じれば、外部業者への委託も可能です。パブコメで、「自己点検結果をQAに報告することとあるが、QAが承認するに修正すべき」ということに対して、「PIC/S GMP Part Iの9.1にある記載の“self-inspection, should be examined at intervals following a pre-arranged programme in order to verify their conformity with the principles of Quality Assurance”から省令の表現にした」旨の回答が出ていますが、この引用は誰が何をするかという明確な回答にはなっていないように思われます(原文の意は「品質保証の原則に適合していることを確認する」で「品質保証部門が確認する」等ではない)。前回の「承認」「確認」で解説したように、Q7では自己点検結果に対しQAは確認する位置付けになっています。確認の位置付けからいえば、QAでない自己点検を担当する権限のある者が行って品質保証の原則に準じていることを判断している状況を、QAが見届ける関係になっていることが理解できます。PIC/S Part Iの9.2には“Self inspections should be conducted in an independent and detailed way by designated competent person(s) from the company. Independent audits by external experts may also be useful.”とあることから、自己点検の内容そのものはQAもタッチできない客観性を保つことで進めるべきことが読み取れます。自己点検は誰が行うかという問題は従前からあって、事例集でも自らが従事している業務の自己点検は適切か否かという議論もありますが、PIC/Sで述べるdesignated competent person from the companyはそういった次元を越えた存在を述べているでしょう。直訳された「自己」を誤解なく、欧米のシステムの本質を議論するべきでしょう。
 2022年3月29日付の「品質問題事案の再発防止に向けた取組みについて」(厚生労働省医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課事務連絡)では、抜き打ちでの自己点検の実施が提言されています。Q7の解釈を記述するAPICの “How to do” Document⑵でも、“un-announced audit or spot checks should be considered besides the ‘normal’ audit programme”とあり、その考慮がいわれています。
 なお、GMPの全ての項目を一度に確認することは現実的には難しく、数回に分けて行うことが認められている中で、どれだけの期間で完了するかということについては事例集(GMP 18-3)では明確な記載はなく、APICでは“APIC advice that all ICH relevant topics/ applicable are challenged at least every 2 years”と推奨されています。「自己点検 = 全対象項目」、「定期的 = 毎年」といった図式で「全対象項目 = 毎年」と指導される経験をした製造所もあるかと思いますが、規制上「定期的 ≠ 毎年」なので、製造所がリスクや実効性を考慮して合理的に決めていくといったところでしょうか。これは何のために行うのかという基本思想を明確にする必要があり、省令に書いてあるからやっているというのは基本思想とはいえません。医薬品品質システムはICH Q10の思想を導入しているので、第3条の3、第4号の医薬品品質システムの照査(すなわち、マネジメントレビュー)では、自己評価プロセスである監査等が、品質目標の結果を測定するための業績評価指標を評価する材料に供される(Q10の4.1章(b)参照)ことから、その観点から頻度を含めてどのように毎年実施していくかを明確にする必要があります。自己点検はQ10での製造プロセスの稼働性能及び製品品質のモニタリングシステムに相当します。現実性等諸々の事柄を考慮すれば、一例としてマネジメントレビューを毎年実施する体制においては、全ての項目を2年間で終了するとしても、システム監査におけるクリティカルなサブシステム(品質システムや自社の弱点に関わるサブシステム⑶)は、マネジメントレビューの頻度に連動させるといった手法が考えられるでしょう。

教育訓練(第19条)
 第1号・第2号は前条同様文言の整理になります。この製造・品質関連業務に従事するとは何かについては、第5条のとおり、「製造管理、品質保証及び試験検査に係る業務」と定義されるので、第10条及び第11条に直接関わるものとなります。
 第4号は新設で教育訓練の実効性の定期評価です。省令改正に先立ち、ICH Q7-IWGで、Q7の3.12章の「教育訓練は定期的に評価すること(training should be periodically assessed)」の意味に対する解説がQ&Aで作成されました(2016年事務連絡)。ちなみにこの部分のQ7の原文は、 “Records of training should be maintained. Training should be periodically assessed.”となっていて、公式の和訳は「教育訓練の記録を保管し、定期的に評価すること」とされています。正確には「教育訓練の記録を保管すること。教育訓練は定期的に評価すること」で、改めてこのQ&Aが設定されたことも踏まえると当時はこの一文の意味がグローバルのレベルで十分に理解されていなかった可能性もあります。これに対するQ7 Q&Aは、従業員が担当業務や職責を熟知し、遂行する能力があるかといったことや教育訓練の頻度を上げるか、追加するか、又は新規の教育訓練が必要か、更新されているかを評価することと回答されており、この部分は重要な位置付けであることが示されています。これを今回の改正省令に追加したもので、ほぼ同様のことが課長通知に書かれています。定期評価の意味は、Q7 Q&Aが発出された後も企業側には十分に理解されていないようです。事例集でも概念的にのみ解説されていますが、これは、教育訓練後にテストにて点数付けすることではなく、例えば過去1年間の製造・品質関連業務のパフォーマンスを評価して、教育訓練の改善の必要性を考察することです。一例では、逸脱で起因/原因分類をしているところがあると思いますが、人為的誤りが多かった期間であれば、過去の教育訓練に実効性がないと判断したり、責任者のパフォーマンスが十分でない事象が考察されれば、責任者教育を見直したりといったこと、新たに規制が発出された際にはそれに対する教育訓練の備えが十分かを考察して改善対策を講ずるといったものです。したがって、教育訓練単独の問題としてではなく、逸脱、苦情、変更、更にはKPI等システム全体に係る問題から考察していくべきもので、製品品質の照査等の大きな機会を利用することが現実的だろうと考えます。

⑴    GMP事例集(2022年版)について, 事務連絡, 令和4年4月28日, 厚生労働省医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課
⑵    “How to do” Document, Interpretation of the ICH Q7 Guide, APIC (Active Pharmaceutical Ingredients Committee), Version 13 (Update January 2020) 
⑶    GMP調査要領の制定について, 薬生監麻発0317第5号, 令和4年3月17日, 厚生労働省医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課長

※ GMP省令の解説は、次回をもって完結しますが、4月28日に発出されたGMP事例集(2022年版)について、今後、適宜解説する予定です。

執筆者について

経歴 ※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

連載記事

コメント

コメント

投稿者名必須

投稿者名を入力してください

コメント必須

コメントを入力してください

セミナー

eラーニング

書籍

CM Plusサービス一覧

※CM Plusホームページにリンクされます

関連サイト

※関連サイトにリンクされます