医薬品設備建設における「オーナーのプロジェクトマネジメント2nd改訂版」【第12回】

(5)    詳細設計時のリスクマネジメント
基本設計時のリスクマネジメントについては第12項の(8)に記載したが、以下のようなリスクのうち①および②は、建設プロジェクトの所掌範囲外であることが通常である。
①    新製品開発が中止する
②    医薬品認可規制当局の承認遅れや認可が下りない
③    プロジェクトの予算が超過する
④    プロジェクトの工期遅れにより、製品上市が遅れる(患者への供給遅れ)
⑤    プラントの要求性能・機能が満たされない
⑥    製品品質および患者の安全性を確保できない
詳細設計ステージでも③④⑤を中心に考える。

 予算超過について考えると、詳細ステージに入るとかなりの項目について見積金額が明確になり、ランプサムで各契約を結んでいる場合は、オーナー側の全体予算が把握できる。以降に特別な事情や高額の追加をしない限り、最終の全体予算の傾向が把握できる。したがって、今後の予算超過の大きなリスクとして考えられるのは
・基本設計のミスや間違いが詳細設計ステージに発見され、基本設計のやり直しや、既に発注契約した項目の変更となる。
・詳細設計において、大規模な設計変更が発生する。
・詳細設計にて過剰な仕様を選定する
・行政協議にて、基本設計で検討できなかった事項を指摘される
・設計の不備により、試運転検証段階で要求されている性能や機能が発揮できないため、場合によっては設計や製作・施工にまで戻るような、変更修正が発生する
・急激な物価上昇によりコストアップとなる
・業務量の見誤りにより、リソース増加に伴ってコストアップとなる
・コストコントロールが不十分である
・工期遅延のリスクによる予算超過
などが考えられる。ほとんどのリスクは設計に起因するものであり、いかに設計における正確さが重要であると言える。

 次に、工期遅延についてであるが、前述の予算超過のリスクは金銭面だけでなく工期面にまで大きく影響する。したがって設計の正確さは予算、工期に大きな影響を与える重要因子である。その他の工期に影響を与える大きなリスク要因は
・ベンダーやサブコントラクター(その下請けを含む)の経営上の問題が発生し、倒産などによる工期延長のリスクがある。
・戦争や急激な社会変化などにより、設計に遅れが発生するリスクがある。
・エンジニアリング会社やサプライヤー、サブコントラクターの力量不足で設計が計画通り進捗しない
・詳細設計において、大規模な設計変更が発生する
・計画工程表が実際の設計、製作、施工、試運転などを考慮していない
・ドキュメントの進捗管理ができていない(設計期間における承認返却とその修正期間を含む)
・長納期品や開発機器の工期の調査不足により工期延長となる
・必要な機器の仕様検討が計画通り進まず、発注時期が遅れる
・設計ミスにより設計の後戻りとなる
・要員交代により設計が後戻りになる
・詳細設計後に提出される精算見積が予算超過し、VE検討・社内承認に時間を要する
・予算超過リスクにより工期延長となる

プラントの要求性能・機能が満たされない要因として考えられるリスクには
・基本設計のミスを修正せずに詳細設計を行う
・基本設計段階での検討不足
・設計ミス
・設計者が未経験
・設計者の能力が低い
・URSの解釈間違い
・ユーザーと設計者間の情報交換が不十分
・設計者が話を聞こうとしない
・機器などが開発品である
・要員の交代により設計思想が伝わっていない

 次いで、⑥についてはいわゆる製薬プロジェクトの品質リスクマネジメント(QRM)によるリスクアセスメントが該当する。詳細設計が進捗すると、施設・設備のコンポーネントやパーツが確定され、詳細なリスクアセスメントが可能となる。リスクアセスメントの結果、リスクの総合評価の大きい部分には、リスクの軽減策を検討し、軽減策を設計に織り込むかを決定していく。リスクアセスメントの結果により、詳細設計が決定していくことになる。

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