いまさら人には聞けない!微生物のお話【第10回】

第二部   微生物のコントロール

1.    用語の解説
2.    微生物は不潔?
3.    なぜ微生物管理が必要なのか?
4.    微生物を殺滅/除去する
 4.1    加熱による殺滅
 4.2    放射線による殺滅
 4.3    化学物質による殺滅
5.    管理の対象としての微生物
 5.1    微生物の好きなもの、嫌いなもの
 5.2    設備/エリア
 5.3    空気
 5.4    製造用水
 5.5    原料、資材
 5.6    作業者の管理
 5.7    清掃、洗浄、消毒

3. なぜ微生物管理が必要か?
微生物の基礎の項で述べたように、微生物はどこにでもいます。管理していなければ、当然医薬品や医療機器にも存在するでしょう。しかも肉眼で見ることはできません。水、温度、栄養、pH、浸透圧などが適当であればどんどん増殖します。増殖速度は非常に速く、中には病原性を有するものや腐敗や変質の原因になるものもいます。そのため医薬品や医療機器の製造管理においては、適正な微生物管理が求められており、現実的に対応可能な範囲で微生物による汚染を防がなければなりません。
多くの医薬品や医療機器では、無菌性が要求されたり菌数限度(単位量当たりに許容される最大生菌数や検出菌の種類)が定められたりしています。これは最終製品のみならず、原材料、中間製品、製造設備、製造環境、従業員などに対しても同様です。この要求を満たすために、医薬品や医療機器の製造工程では微生物管理に関する様々な要件が規定されており、出荷時には最終的にその微生物規格に適合しなければなりません。
なぜ医薬品や医療機器では微生物に関する厳しい要件があるのでしょうか?それには以下のような理由があります。

  1.  感染の防止
    医薬品や医療機器の中には、患者の血液や体液に直接接触するものがあります。そうでなくても多くのケースでは、病気やけがなどで体力が弱っている人が対象になります。従って万一有害な微生物が医薬品や医療機器に存在していると、それが病原体として感染を引き起こす可能性があります。
    微生物に対する要求の程度は、製品により異なります。注射剤や血管系カテーテルなどは特に厳密な無菌性が要求されます。一方飲み薬や消化器用の医療機器では、一般的に無菌性までは要求されません。
  2. 品質劣化の予防
    感染予防ともつながりますが、微生物が製品中または製品上で増殖することで、製品の品質が劣化する場合があります。それには有害物質の蓄積はじめ、色、pH、臭気、性状などの変化が含まれます。化粧品やトイレタリー製品などではこれを防止するために、しばしば防腐剤が使われます。
  3. レギュレーションへの適合
    たとえば治療や検査などで一般的に使われている注射針は、「滅菌済み注射針」で、名称の通り滅菌済みであること、すなわち無菌性が要求されています。これはこの製品が血液に直接接触することより、患者への感染を防止するために、規制要求事項として無菌が要求されているものです。
  4. 感染事故が発生した時に、使用した製品が原因ではないことの証明
    無菌医薬品や滅菌済み医療機器が使われる際、必ずしも無菌環境下で使用されるわけではありません。クリーンルームで使用されるとしても、患者自身の皮膚や粘膜には多くの微生物が存在しています。その結果、使われた医薬品などの無菌性には問題なかったにもかかわらず、感染事故が起こる可能性は否定できません。
    万一そのような事態に至った時に、感染が自社製品の滅菌不良に起因するものでないことを主張できる根拠として、滅菌を行うことが必要です。
  5. マーケティング上の必要性
    特に一般向けの製品では、信頼性が高いというイメージを付与するために、「滅菌済み」「消毒済み」といった表示を行う場合があります。「消毒」という言葉はそれをどのような方法で達成したかは明確な基準はありません。一方「滅菌済み」と表示する場合は、無菌を保証することが必要です。

もし微生物がハエなどの昆虫くらいの大きさであって、それが製品に混入していれば、直ちに使用者がそれに気づき、苦情として製造販売業者に連絡が入るでしょう。異物混入は、医薬品、医療機器にとって極めて重大な問題で、多くの場合回収となります。一方微生物は、たとえ製品中に存在していても、それを目で確認することはできません。しかし条件が重なると、とんでもない感染事故にもつながりかねません。
医薬品や医療機器の製造業者は、そのことを常に認識し、製造管理、品質管理を行うことが求められます。
 

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