医薬原薬の製造【第18回】

2016/05/19 原薬

今回は原薬の骨格を形成する上で最も大切である、C,N,Oアルキル化反応について議論します。酸性を示すCH, NH, OHを塩基と反応させてNa, Li, K などの塩を形成させ、R-X(X:ハロゲン)でアルキル化する反応です。これらの反応は酸性プロトンを塩基で引き抜く反応がベースになりますので、反応を理解する上でpKa理論が重要です。そこで、pKa理論と、これらの反応で利用性の高い相関移動触媒について議論したいと思います。
 
 
pKaとは
議論を始める前にpKaの基礎理論について述べます。酸AHがプロトンとA- が生成するときに、pKaは以下の式で定義されます。


pKaの定義式から、酸の半分が電離している場合、[HA]=[A-] となりますので、はゼロとなります。この時pKaはpHと等しいことになります。即ち、酸の半分が電離したときのpHがpKaだということになります。
 
我々が、実験室で使う塩基で最も強力なものはt-BuLiです。この物質は、酸 t-Bu-HとNaの塩と考えられます。t-BuHが酸?と思われるかもしれませんが、以下の化学平衡が成立しています。

 
t-BuHのpKaは53と言われています。この数値の意味について考えてみます。pKa=53ですから、Ka=10-53 と、とんでもなく小さい値になります。1モル/Lのt-BuHの水溶液(実際はそんな高濃度で水には溶けないのですが)のpHを計算して見ます。解離度は非常に小さいので、[HA]=1.0と考えられます。またKaの定義式から計算しますと、[H+] = [t-Bu-] = 10-26.5、となります。pHはpH = 26.5 と常識外れの値になります。高校で学習するアボガドロ数を思い出してください。アボガドロ数とは、1モルの分子は、6x10+23個である。というものです。先ほど述べたように、1モル/Lのt-BuH水溶液中の水素イオン濃度は、[H+] = [t-Bu-] = 10-26.5 ですから、1モル溶液1L中の(1モル)t-BuHの内、電離しているイオン分子 t-Bu- は理論上1個以下となります。計算上は、およそ6/(10)0.5x10-3 ~ 2x10-3およそ1/500個となります。理論上測定を500回行って1回、1個の分子が電離しているということが確認できることになります。
 

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執筆者について

森川 安理

経歴 アンリ・コンサルティング 代表。
大学修士課程で有機化学を専攻後、1977年旭化成工業(株)入社。スクリーニング化合物の合成、プロセス化学研究に一貫して従事。この間薬学博士号取得。その後、医薬原薬の工場長を10年経験。工場長として、米国、イタリア、豪州、韓国の当局の査察および、制癌剤を中心にする治験薬の受託生産を経験。旭化成ファインケム(株)を2013年2月末退職。2013年3月より現職。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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