医薬品開発における非臨床試験から一言【第6回】

非臨床試験で用いる用語についてトピックを挙げて説明します。
新型コロナウィルス(一本鎖RNAのウイルスゲノムを有する)の検出(診断)にはPCR(Polymerase Chain Reaction)法が用いられていると報道されています。ターゲットゲノムの遺伝子配列の設計が分析感度のポイントになります。一方、非臨床の薬物動態試験で代謝酵素の誘導評価は、ヒト培養肝細胞を用いて代謝酵素のmRNA量の増減をPCR法で測定しています。PCRはDNA鎖を70℃程度に熱変性して2本鎖をほぐし、ポリメラーゼを用いて相補鎖の合成を繰り返し行ってDNAを増幅する方法です。短時間で 指数関数的に増幅でき、増幅過程を蛍光プローブで検出するのがリアルタイムPCR法になります。正確に記述すると、RNA(mRNA、RNAウィルス)の検出では、逆転写酵素を用いてcDNA(c:complementary、相補的)に変換して測定します。つまり、逆転写反応(RT:Reverse Transcription)を行って後にPCRを行うので RT-PCR法と呼ばれ、RNAを高感度に分析できます。

非臨床の毒性試験について取り上げると、長期投与の動物試験に「がん原生試験」があります。ここでは「癌」ではなく「がん」の表記が用いられています。なぜでしょうか。国立がんセンターも平仮名表記です。厳密には、悪性腫瘍を「がん」と呼び、がんの中で、非上皮組織由来を「肉腫」、上皮組織由来を「癌」と呼びます。従って、悪性肉腫全体を扱う動物試験は「がん原生試験」となり、臨床は「国立がんセンター」で、例えば、白血病、骨肉腫と、胃癌、肺癌、すい臓癌になります。

非臨床の生殖発生毒性試験とは、妊娠可能な女性の臨床試験への組み入れを可能とする試験で、雌受胎能試験と胚・胎児発生に関する試験が求められます。さて「胚・胎児」の用語について、動物では生物学的に「胎仔」としますが、医薬品開発での記載は「胎児」となります。動物のfetus の日本語は、実験動物関連領域では、従来、慣例的に仔(シ)が用いられていました。しかし、近年は医学のみならず動物学でも胎児(ジ)とされており(文部省学術用語動物学編、1988 年)、動物愛護の観点からもヒトと動物の区別をせず、医薬品開発のための動物実験では胎児とします。

「曝露」と「暴露」は、どちらが正しいのでしょうか。医薬品開発での用語としては何れでも結構です。語彙から、私は「曝露」を推奨しますが、暴露も使用されています。例えば、ICH-S3(トキシコキネティクス(毒性試験における全身的暴露の評価)に関するガイダンス、1996年)のように、冒頭の通知の名称は「暴露」ですが、本文は「曝露」で統一されています。皆様の好みはいかがですか。

「腹腔」(腹膜腔)の呼称は、「フクコウ」と「フククウ」の何れでしょうか。日本解剖学会は「クウ」(1943年)に決定し、医学分野の正則となっています。「灌流」と「還流」は何れでも結構ですが、私は「灌流」を推薦します。腹腔にある「腸間膜」、「空腸間膜」、「直腸間膜」は、大網なども併せて腹膜に分類されます。腸管の膜と考えて「腸管膜」と書くと誤字になりますので注意してください。四つ足動物の「顎下腺」は、下顎腺と呼ぶのが正式で、顎(アゴ)の下側(顎下)ではありません。しかし動物でもヒト(臨床)と同じ「顎下腺」の表記を使用しています。「生理食塩液」は0.9%の塩化ナトリウム溶液なので生理食塩水とは記載しません。末梢神経、末梢静脈は「抹消」の誤字に気を付けてください。

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