基礎から学ぶeCTD【第1回】

2020/02/28 臨床(GCP)

松井 一

はじめに
 日本において2005年から開始されたeCTD形式による新医薬品の承認申請は、約15年が経った現在、新医薬品の承認申請のほぼ100%がeCTD形式で行われている。更に、PMDAでは、承認申請時の電子データ提出の義務化に併せて、2020年4月以降、原則eCTDによる申請が求められている。
 現行eCTDはバージョン3.2.2であるが、次世代eCTD v4.0は、2015年12月のICHジャクソンビル会議において、Step 4の合意に達し、日米欧の規制当局、ならびにカナダ、スイス、オーストラリアでは、eCTD v4.0の導入に向けた準備が開始されている。一方、ICH以外の地域におけるeCTDの状況をみると、サウジアラビアでは2015年1月からeCTDが義務化されており、南アフリカでは2016年4月からeCTD形式による新医薬品の製造販売承認申請を受理している。タイでは2017年よりeCTDが義務化され、中国でもeCTD形式による新医薬品の承認申請を始めようとしている。
 上記のように、eCTDの多様化が進む中、今後、どうeCTDに対応するかについて、5回にわけて連載する。第1回は、eCTDの基礎的な知識とeCTDの現行バージョンであるv3.2.2について、eCTD義務化で不安を持っているeCTD初心者にもわかるように解説する。

1.    eCTDと現行バージョン3.2.2
 eCTDの仕様は、2003年6月4日付け医薬審発第0604001号厚生労働省医薬局審査管理課長通知「コモン・テクニカル・ドキュメントの電子化仕様について」(eCTD通知)、2004 年5月27日付け薬食審査発第0527004号厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知「コモン・テクニカル・ドキュメントの電子化仕様の取扱いについて」(eCTD取扱い通知)、2009年7月7日付け薬食審査発0707第3号厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知「新医薬品の製造販売の承認申請に際し承認申請書に添付すべき資料に関する通知の一部改正について」(改正版eCTD取り扱い通知、通称、七夕通知)にて規定されている。これらの通知のキーポイントについて、以下に述べる。
 eCTD通知によると「eCTDは規制情報を企業から当局に送付するためのインターフェースとして定義され、同時に電子化申請資料の作成、審査、ライフサイクル管理および保管を容易にすることを視野に入れている。eCTD仕様の目的は、企業から規制当局への承認申請資料の電子的伝達に必要な仕様を提供することであり、企業間および規制当局間の伝達は対象にしていない。」と定義されている。しかし、現行v3.2.2では、eCTDは新医薬品の承認申請資料(CTD)を企業から当局に送付するためのインターフェースでのみ利用されているといっても過言ではない。よりわかりやすく表現すれば、CTDをICHやPMDA等の規制当局が定めた電子的仕様に従って作成した電子ファイル(eCTD)による新医薬品の承認申請を行うことである。
eCTDは、以下の構成要素からなる。
・  eCTDインスタンス及びeCTD DTD
・  CTD第1部のインスタンス、XMLスキーマ及びリーフファイル
・  CTD第2~5部のリーフファイル(PDFファイル)
・  フォルダ
・  ICH-M2提供の標準スタイルシート、審査当局提供の第1部用標準スタイル
  シート
・  チェックサムファイル
 これらのeCTD構成要素は、あまり親しみのないITの専門的な用語が含まれ、ITの知識が要求される。まず、最初にこれらの用語について解説する。
 DTDはDocument Type Definition(文書型定義)の略で、XML文書の構造を定義するものである。XML(Extensive Markup Language)は、 W3C (World Wide Web Consortium) 勧告の国際標準規格 で、FD申請で用いられているSGML (Standard Generalized Markup Language) のサブセットとして考案され、任意のデータを Webページを作成するときに利用されているHTML (HyperText Markup Language) と同様の感覚で送受信できることを目標に作成されたマークアップ言語の一種である。マークアップ言語とは、文書やデータの意味や構造を記述するために「タグ」と呼ばれる特別な文字列で囲うことにより文章中に記述していく記述言語で、タグの意味はDTD (Document Type Definition) と呼ばれるスキーマで定義される。スキーマとは、XMLの構造を定義したもので、スキーマを定義する言語をスキーマ言語という。DTDもスキーマ言語の一部であるが、機能的に制限があるため、W3Cより勧告されたのがXMLスキーマである。eCTD DTDとは、eCTDのXML構造を定義したDTDで、eCTD DTDに従って作成されたXML文書のことをeCTDインスタンスと呼ぶ。eCTDインスタンスの一部を以下に示す。< >がタグで、<m2-5-clinical-overview>と</m2-5-clinical-overview>に囲まれている間にある情報が、臨床の概括評価であることをeCTD DTDが定義している。<Title> 文字列</title>も同様で、間にある文字列がタイトルであることを示している。
 
<m2-5-clinical-overview>
    <leaf operation="new" 
    xlink:href="../0000/m2/25-clin-over/clinical-overview.pdf" xlink:type="simple" checksum-type="md5" ID="jp2012"
    application-version="PDF 1.4" checksum="46d7f737504c1e49399023f13b1c2be5">
    <title>2.5 臨床に関する概括評価</title>
    </leaf>
</m2-5-clinical-overview>

 

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執筆者について

松井 一

経歴 外資系製薬企業にて、20年以上に渡り、R&D情報管理ならびにCSVに従事した。2012年からは、株式会社シーエーシー、CACエクシケアおよびCAC クロアにて、製薬R&Dの情報管理、CSV、および申請業務に関する業務コンサルティング、CRO業務の品質保証や信頼性保証を行った。現在は、シーエーシーにて、デジタルヘルスソリューションのアドバイザーを務めている。
eCTDに関しては、ICH M8にエキスパートとして参加し、eCTD v3.2.2のメインテナンスならびにeCTD v4.0の仕様策定に従事した。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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