新・医薬生産経営論(技術革新とこころの経営史)【第2回】

15世紀後半からの大航海時代は、技術革新(造船技術・航海術)と新世界へのロマン。

18世紀後半からの産業革命は、技術革新(動力・交通)と自由主義。

太平洋戦争後の日本経済の復興は、技術革新(経営技術)と民主主義に依る。換言すれば、日本国民の「平和で豊かな未来への希望」が生み出したものである。

 

終戦。

1945年(昭和20年)3月の東京大空襲では約12万人の死傷者、同年4月~6月の沖縄戦では軍民合わせ約16万人以上の死者、8月の広島原爆では約25万人、長崎原爆は約7万人の市民が死亡、太平洋戦争で犠牲となった日本国民は約300万~310万人と言われ、また、その約半分の155万人が軍人であるが、1つの戦争で、攻撃されるはずのない一般市民がこれほど犠牲となった悲惨な例を、多くの国々はその歴史の中に持たないであろう。硫黄島(小笠原諸島)と沖縄を除き、日本国内での地上戦はなかったものの、国内の大都市および県庁所在地などの主要都市の多くが空襲により「焼け野原」となってしまった。

1945年8月15日、昭和天皇は「戦争終結の詔書」を放送(玉音放送)。

同年8月30日、連合国軍最高司令官ダグラス・マッカーサー元帥(米、1880年~1964年)が厚木に到着、9月2日、東京湾上の戦艦「ミズーリ号」で降伏文書が調印され、3年8ヶ月の太平洋戦争が終結した。同時に、日本は連合国軍最高司令官総司令部(GHQ : General Head Quarters)の占領下に入る。
 

GHQ占領下の日本。

1945年10月、GHQは「五大改革指令」を発令。

この指令の内容は、女性参政権の付与、労働組合の結成奨励、教育の自由主義的改革、秘密警察の廃止、経済機構の民主化、という5項目であった。この「五大改革」が日本の民主主義国家への出発点であり、日本国民にとって初めて経験する民主主義であった。

「五大改革」の中の「経済機構の民主化」とは、財閥の解体(1945年~1951年)と農地改革(1946年~1950年)の2つの改革であった。そして、具体的法令として、1945年11月、財閥解体指令が発令され、さらに、1946年(昭和21年)1月には「公職追放」により、戦犯のみならず、政界、経済界、言論界に至るまで約21万人の職を奪った。財閥解体により、日本製鉄は八幡製鉄と富士製鉄に分割され(1970年に再合併)、三菱重工業は、東日本、中日本、西日本の重工業会社に分割(1964年に再合併)された。

農地改革は、大地主から土地を取り上げ、(自分の土地を所有しない)小作農を(自分の土地を所有する)自作農に転換するもので、全農家における自作農の割合は、農地改革により、戦前の約30%から約90%へと拡大した。

他方、1945年12月に労働組合法が公布され、労働者の団結権、団体交渉権、争議権が認められた。

GHQの占領統治政策の目的は、日本の非武装化と民主化、すなわち、日本がアメリカの脅威、世界平和の脅威にならないようにすることにあった。なお、極東国際軍事裁判(東京裁判)における日本の罪名は、「平和に対する罪」であった。

     (注)ニュルンベルグ国際軍事裁判でのナチスの罪名は「人道・平和に対する罪」であった。

しかし、そうした政策以前に、国土の多くは「焼け野原」であり、会社は解体され、経営者は追放されて経営に関与することは出来ず、海外からの復員(軍属者の日本帰還)や引揚げ(一般人の日本帰還)は進まない。特に、満州国ではソ連の参戦~シベリア抑留という虐待で多くの日本人が日本の土を再び踏むことなく極寒の地で死亡した。国民すべてが日々、食べることに精一杯で、日本経済の復興は誰も信じられず、絶望感ばかりの状態であった。

1946年5月、戦後第1回目のメーデーが25万人の人を集め、皇居前広場(主催者は「人民広場」と呼称した)で開催された。いわゆる「食糧メーデー」である。1946年の農業生産は、日中戦争の開戦前に較べ約60%の水準であり、このメーデーを契機に全国各地に「米よこせ」デモが広がった。

米国映画「風と共に去りぬ」(1939年)の中で、南北戦争で家屋・畑を焼かれ財産をすべて失った主人公が焼け焦げた地面から立ち上がって叫ぶシーンを憶えている。映画の前編最後のシーンである。

「私には、まだ、時間という財産が残っている」。

終戦直後の日本の国土の状態と日本人の心情は、この映画のシーンのようであったと思う。

「焼け野原」と空腹と孤独という絶望感の中で、それでも、日本の国民は正しく生きること、そして、未来への希望を失ってはいなかった。
 

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