業界雑感 2018年7月

2018/08/03 その他

 「戦略とは何をやらないかを決めることである」(マイケル・ポーター 米ハーバード大学教授)。先日の新製剤技術とエンジニアリングを考える会主催の技術講演会で、塩野義製薬手代木社長の講演を伺いながら、そんな言葉を頭に思い浮かべていた。

 医療用医薬品市場が、抗生物質全盛時代を迎えた1980年代前半には、常に国内製薬企業の五本の指には入っており、「営業力のシオノギ」とも言われていた。ところが、1990年代に入り主力であった抗生物質が耐性菌の問題などから大幅に減少していったことに伴い、抗生物質への依存度が高かったシオノギの業績は急激に落ち込んでいく。業界内でのシオノギのポジションがどんどん地盤沈下していく中、国内製薬大手企業はグローバル化をキーワードとして、海外に自販体制を築くことに戦略集中していたともいえる。シオノギを救ったのはクレストールであり、1991年にシオノギで創製後、1998年に英・アストラゼネカ社が開発を引き継いだ結果としての数字ではあるが売上ピーク時の2011年には全世界で80億ドルに迫る売上高を記録、シオノギは2011年単年でも8.1億ドルのロイヤリティー収入を得ている。同社の業績はこれにより大きく持ち直したわけで、他の国内大手製薬企業が進めていた「グローバル自社販売」にこだわっていたとしたら、クレストールがここまで成長できたかというと難しかったのかもしれない。同業他社の動向に惑わされることなく、「何をやらないかを決める」戦略のお手本のような話として聞いていた次第である。

 つい先日、富士フイルムグループが、傘下の富士フイルムファーマを来年3月末で解散する方針を決めたとの発表があった。現在の後発医薬品を中心とした事業活動では安定的な収益を将来にわたって確保することが困難と判断した結果とのこと。富士フイルムグループは医薬品事業全体を刷新中で、富山化学工業と富士フイルムRIファーマを統合した「富士フイルム富山化学」を10月に発足させ、がん、中枢神経系疾患、感染症の領域に重点化した診断薬・治療薬やドラッグ・デリバリー・システムの開発に注力する方針というから、グループの戦略としては「後発品事業をやらない」と決めた結果ともいえる。一昨年から昨年にかけては、先発メーカーによる長期収載品譲渡のニュースが多く聞かれたわけだが、これから先に後発薬事業の譲渡や撤退が進む先駆けになるのかもしれない。
 
以上

執筆者について

村田 兼一

経歴 村田兼一コンサルティング株式会社代表取締役。
1978年藤沢薬品工業(現アステラス製薬)入社。注射剤製造、無菌バリデーション技術開発、FDA対応、基幹システム(SAP)開発等に従事後、生産本部にて中期戦略企画、工場分社化推進・合併準備委員会に携わる。合併後のアステラス製薬では、戦略企画の後、製造委受託の推進を担当する。
2012年に退社し、村田兼一コンサルティング株式会社設立。工場の原価をはじめとする計数マネジメントを中心に、SAP開発を含むサプライチェーン全般の管理・改善を専門とする。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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