ゼロベースからの化粧品の品質管理【第53回】

2025/02/28 化粧品

今回は製造販売業者に求められているGQPとGMPとの連動による品質保証について。

 

―GQP体制の充実による品質保証体制の展開について―

 「化粧品製造所におけるGMP(適正製造規範)体制の整備に関して、前回は製造所における文書管理の重要性についてお話しいたしました。製品に関する情報は、製造販売業者が市場に出荷した製品に対する責任を負うため、製造販売業者においても製造、試験、流通各段階における品質・安全性・効能を保証するための書類が整備されることが不可欠です。しかしながら、日々の生産が行われている製造所においては、製造販売業者が管理面を主体とする目的に対して、製造所ではより生産の実務面での管理が求められており、重点を置くべき内容には違いがあるべきではないかと考えます。
 また、品質保証の観点では、製造所におけるGMPと製造販売業者によるGQP(適正品質管理規範)が密接に連携することで、消費者に安全かつ安心な製品を提供することが可能となります。しかしながら、現状の製造販売業者におけるGQPの展開状況を鑑みると、製造所とのGMPの二重化による事務処理負荷が大きい一方で、GQPは日本独自の制度であるためその認知度が十分でなく、実施において表面的な対応にとどまっているように感じられます。特に、GMPを監視するべくGQPの管理のスタッフの人員数や求められる事項に対する運営体制にはギャップが目立つ状況です。
 製造所におけるISO9001とGMPの統合が求められる理由を整理し、さらに品質保証体制の充実を目指しGQP体制を強化するための課題について考えていきたいと思います。

1.ISO9001:2015とGMPとの融合が求められている背景
 前回までに医薬品でのISO9001とGMPとの融合の動きやEUの化粧品用原料に関するISO9001:2015とGMPとの融合した品質保証体制の認証の動きについてお話しました。今回はなぜ二つの基準の融合の動きが起きているのかについて考えてみたいと思います。
 ISO9001とGMPは製品の品質保証を目的としているものの、それぞれの目標は異なり、ISO9001が製品とプロセスの改善に焦点を当てているのに対し、GMPは品質要求事項の達成に焦点を当てています。ISO9001はリスクマネジメントの助けを借りて品質プロセスを管理および改善することで解決策に取り組みますが、GMPは最初に品質管理側から製品を見ます。どちらのルールも高品質の製品の実現を目指していることに対して、ISOは会社全体に重点を置いており、GMPは製品属性の達成に重点を置いています。
 
●ISO9001:製品の品質管理に関する国際標準であり、企業が製品の品質を一貫して管理し、顧客の要求を満たすための体制を整えることを目指している。
●GMP:医薬品等の製造過程における品質管理基準であり、製品の安全性、有効性、品質を確保するための規範。
 
図 1 医薬品等の品質保証に関する法的要求
 
図 2 医薬品等の品質保証体系
 二つの規格要求の目標が異なるものの、製品の高い品質を確保するためこの二つの融合により、以下の事項の充実が図られます。
① 包括的な品質保証の実現
GMPは製品の製造過程に重点を置いていることに対して、ISO9001:2015は全社的な品質マネジメントシステムを重視します。これらを統合することで、製品の全ライフサイクルにわたる包括的な品質保証が実現します。日本においてはGQPによるGMP体制の品質管理の監視体制と安全性に関するGVPの管理体制、更には、顧客要求の視点を盛り込むことで包括的な品質保証体制が整います。
② リスク管理の強化
ISO9001:2015はリスクベースの考え方を取り入れており、リスク管理の枠組みを提供します。これにGMPの詳細な製造管理基準を加えることで、潜在的なリスクを早期に特定し、適切に対応する体制が強化されます。化粧品GMPの改定は行われていないものの、最近の医薬品のGMPではリスクアセスメントが求められており、正しくISO9001のアプローチが取り入れられていると言えます。
③ 管理の効率化の向上
ISO9001の規格要求への適合の体制を整えている会社がある一方、ISO22716が国際的に基準化される中で、顧客要求や海外各国の会社との取引の中で、それぞれの基準への適合が求められるケースがあります。この対応を図るためには二つの基準を統合することで、重複するプロセスや書類作成が削減され、運用の効率が向上します。ISO9001の要求事項に基づく自ら定めた品質保証ルールに沿う体制に対して、具体的に定められたGMPの要求項目にそう体制を整えることように融合したシステムに整えることでリソースの最適な活用が可能となり、コスト削減にもつながります。
④ 法規制遵守の強化
ISO9001:2015のシステムでは、外部環境と内部環境の変化に対応した組織全体の品質マネジメントが求められています。そのためGMPの製造に関する品質管理の法規制遵守要件を補完します。これにより、直接的な薬機法の要求事項以外の法的リスクに対して低減が図られます。
⑤ 顧客満足の向上
ISO9001:2015が顧客満足を重視する一方で、GMPは製品の安全性と有効性を確保します。この二つの視点を融合することで、品質の一貫性を保ちながら、顧客の期待に応える製品提供が可能となります。

 

 

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執筆者について

鈴木 欽也

経歴

1980年に㈱資生堂に入社。掛川工場で処方開発・生産技術開発を担当。ネイルエナメルのゲル化剤、色材の開発や調色に関するコンピューターカラーマッチングシステムを開発。他に高圧乳化、凍結乾燥、パーマ剤、ヘアカラー等の特殊技術開発にも従事。
その後、本社生産技術部で海外事業戦略、海外工場建設、生産技術移転、海外薬事対応の業務を担当した後、再び掛川工場でファンデーションやマスカラ生産の移管業務を担当、本社で海外原料・資材・製品調達の業務を担当した後、中国北京工場の取締役工場長として、工場建設とシャンプー、リンスの現地生産化や化粧品の工業会の業務に尽力。
帰国後、掛川工場技術部長、大阪工場技術部長を歴任、FDAの査察受け入れやEU原薬登録を実施。
また、㈱コスモビュティー執行役員 品質管理部長としてベトナム工場、中国工場を建設。現在、㈱ディー・エイチ・シーさいたま岩槻工場の工場長でメーキャップ製品の工場改修・立上げを実施した。2017年から中小企業診断士として、鋳造業、サービス業、建築業等の事業計画作成支援や企業の5S活動支援を実施している。
品質管理に関しては、米国OTC製品の化粧品業界で日本国内初のFDA査察を受け入れ、指摘事項ゼロ件での対応、ヒアルロン酸のヨーロッパ原薬登録・米国FDA登録、ヒアルロン酸の原薬工場棟の増設を責任者として推進した経験を持つ。
公害防止管理者(水質1種、大気1種)、中小企業診断士(埼玉県正会員)、FR技能士、ターンアラウンドマネージャー(事業再生、(一社)金融検定協会認定)、健康経営EXアドバイザー、ISO9001審査員補、2022年5月から(株)エコノス・ジャパン代表取締役

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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